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アニーの幸福論 資本主義を越えて

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―本当のアニーがここにある―

 アニーと聞けば、「トゥモロー、トゥモロー」というリフレインが印象的な、古典的なミュージカル作品が思い浮かぶ。貧しかった少女が、世界一お金持ちウォーバックスの養子になる、ハッピーエンドの物語だ。
 今回私が読んだのは、2014年発売の、トーマス・ミーハン著、三辺律子訳の本だ。トーマス・ミーハンは、ハロルド・グレイの新聞連載漫画『小さな孤児アニー(Little Orphan Annie)』をミュージカル化する際の脚本家だった人物だ。1929年生まれ、と裏表紙に書いてあるが、そのミーハンが、脚本のための戯曲ではなく、小説として出したのがこの本である。あとがきは2013となっており、齢80を超えた往年の脚本家が書いたのかと思うと、それだけで感慨深いものがある。
 さて、ミーハン自身もあとがきで述べているように、アニーはミュージカル作品である。であるからして、どうしても時間に限りが出てきてしまうのだ。ミュージカルという限られた時間のなかで作品を終わらせなければならない。ミュージカル作品には、常にそのような制約がかかってしまう。ミーハンはアニーをどうしても小説化したかったのである。それは、ミュージカルで省かなければならなかった部分、しかし、本当のアニーを理解するうえでは必要不可欠な部分があったからなのである。
 私はアニーを1982年のコロムビア映画版でしか触れたことがない。その時には、単純に資本主義を批判的に見ているな、というくらいしか思わなかったが、小説版に触れてみると、さらにアニーの心理など、きめ細かいところまで作品を理解することができる。

 まずは映画版アニーにも受け継がれている、資本主義への眼差しについて。
 やはりアニーは、幸福論を語っていると私は思うのだ。そのなかでも、貧しさと裕福、という二つの両極端の状況が描かれる。一見するとこの作品は、貧しかったアニーが大金持ちのウォーバックの養子になり、お金持ちになる、という成功譚のように見えてしまう。しかし、アニーが幸せになったのは、お金持ちになったからなのだろうか。もちろん、アニーが貧しさから離れることによって幸せになったというのはありうる。だが、ウォーバックはどうであろう。彼は大金持ちであったが、幸せであったとは述べていない。それどころか、アニーに巡り合ってから彼は、常に「私には何かかけたものがあった、それはアニーだ」と述べているように、欠損を抱えて生きて来たことが受け取れる。
 『アニー』が提示するのは、単純な公式ではない。貧しい=不幸、豊か=幸せ、ではない。そして、貧しい=幸せ、豊か=不幸、という図式でもない。アニーが貧しい時の状況は、確かにアニーはその心の持ち方によって、明るく振る舞ってはいるが、幸せといえる状況ではないだろう。実際アニーもその苦痛から逃れるために、何度も脱走を図っているのである。ここには、わかりにくさがある。
 だが、一端豊か、貧しい、という二項対立から離れて見ると、わかりやすくなる。人間は貧しく辛い状況ではなく、ある程度の生活水準にあれば、金銭的な問題ではなく、いかに他者と生きていくかがその人の幸せにつながるのである。そういうことが描かれているのではないだろうか。だからこそ、本当の両親を探し続けるアニーは、いつまでも両親を欠いているために不幸せである。そしてウォーバックも、金銭的には恵まれているが、人間的に欠けているため不幸せである。
この二人が初めて出会い、そしてお互いの欠損を埋め合うことによって、二人は幸せになるのである。
 ある意味まっとうで中道的な幸福論である。だが、そんな幸福論なら、これほどのお金持ちを出さなくても、他者と居れば幸せ、ということを描けばよかったのではないか、という疑問も起こる。しかし、この作品ではそうではなくて、実際に世界一のお金持ちを引き合いに出しているのである。ということは、何故出したのか、ということを考えねばならない。やはりここには逆説があると考えたほうがいいだろう。すなわち、世界一のお金持ちでさえ、その状態では幸せになれない。家族、寄り添える他者あってこその幸せなんだ、ということを示したかったのであろう。だからこそ、世界一のお金持ちでも、幸せではない、ということを描写したかったのではないだろうか。そしてそれは、痛烈な資本主義批評になってはいないだろうか。

 さて、アニーだが、この作品を読むと、あるいは見ると、既視感のようなものを感じる。それは、この作品がある意味で王道、すなわち物語の定型をとっているからであろう。だからこそ、この作品は安定しておもしろい、ともいえる。だが、一方で、例えば『オリバー・ツウィスト』や、『メリー・ポピンズ』、あるいは、貧しいところから一転して豊かになる、という物語展開においては、『シンデレラ』と類似しているという問題もある。
 作者自身も、『オリバー・ツウィスト』の影響を受けていると述べている。この作品が作られた1900年代前半において、すでにディケンズは古典となっていたのであろう。だから、物語の内容は似ていても、新しく作り直すことの意味はあったように思う。
 では、シンデレラとの類似点はどうだろうか。シンデレラ並びに、ディズニー作品は昨今鋭い批評の眼差しを向けられている。そこには極めて歪められた、古典的な男女観というものが存在しており、しばしば、登場する女性は、王子様の到来を待っているだけ、自分からは何もせず、ただ耐えるだけ、それが美徳なのだ、と教えるようなイデオロギーが発生している。そうした歪められた価値観が、フェミニズムが広まった現代の価値観からすると、疑問符を抱かざるを得ない読後感をもたらすのだ。シンデレラを見ていて、なんだかすっきりとしないのは、シンデレラ自身が何も主体的な行動をしないからなのである。
 では今回はどうだろうか。貧しい少女がその美徳によって豊かな人物に救われる、という点において物語は類似している。しかし、私はこのアニーを観た際に、読んだ際に、不思議とさわやかな読後感を覚えずにはいられない。それはなぜなのだろうか。やはりそれは、アニーがシンデレラとは異なり、自ら考え、行動している、主体性に求められるのではないかと思う。
 映画版ではなかなかわかりづらかったのであるが、小説版では、きちんとアニーが孤児院を抜け出し、ウォーバックに出会うまで一年間も自分の力で生きていたことが克明に描かれている。ミュージカルや映画では残念なことにこの部分が大幅にカットされてしまっている。だが、本当のアニーをしるためには、まさしくここが必要なのである。アニーは自らの手で自らの人生を、運命を切り開こうとする主体的な人物なのだ。だからこそ、そうした努力が最後には報われる。そこに我々は、ああよかった、という安堵に似たようなものを感じるのではないだろうか。だからこそ、我々はシンデレラには感じられない開放感、勇気、明るさ、といったものをこの作品に感じられるのである。

 とまあ、ここまでは誰もが書けるようなことを書いてきたわけであるが、最後に追加するとしたら、私ならこう言うだろう。それでも物語が作られたのが古すぎたのか、やや勧善懲悪にすぎる、と。
 ほとんどの読者はアニーに感情移入するだろうか。私もある部分ではそうした部分もあった。努力をし、それが報われる、という点では、我々は否応なしに、アニーに勇気づけられるはずである。だが、アニーは明るすぎるように私には感じられてしまう。それは私自身が暗い人間なのだからであるが。むしろ、私は、アニーよりも孤児院を経営しているミス・ハニガンの方に肩入れしてしまう。私自身、このような時代に生きていたら、ハニガンのようになったであろう。そうして、何も面白いことがないなかで、自分達より弱い存在をいじめることしかできない、その感覚もよくわかるのである。
最後に近い場面で、ウォーバックの屋敷でクリスマスパーティーが開かれる。そこに招待する客をアニーとウォーバックは相談する。その際、ウォーバックは、ハニガンも呼ぶべきだ、彼女のことを許してやらなければねと言う。私はそこに救いが、この作品の余裕があるかと思っていた。ところが、最後になって、ダニエルたちが逮捕される場面で、ハニガンも共犯者として連行されてしまうのである。
 私はその点、ダニエルとよく似た登場人物である、『レ・ミゼラブル』のティナルディエ夫婦が、最後まで裁かれることがなかったのはまだ救いがあると感じる。貧しい世の中では、人間は生きるのに必死で、善悪の境があやふやになってしまっていることを捉えているとして、『レ・ミゼラブル』のほうに軍配をあげたい。『アニー』も爽快で悪くはないのだが、ついつい私のような人間にとっては、悪者がこてんぱんに断罪されてしまうのは、つらいところもある。そこは、許容できなかったこととして、この作品の狭さになってしまっているのではないかなと思う。

 だが、だからといってこの作品の価値が下がるかというとそんなことはない。
 作者も述べているように、この作品は時代のどん底で生まれた。だからこそ、これから先には必ずいいことが起こるはずだ、という明るい視点をもって、明るく生きていけるのだ。その勇気を人々に与える存在として、アニーは永遠に人々に記憶されるだろうし、人々を勇気づけるだろう。

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