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黒い雨の感想を読んだ感想

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 今回私はとある学校で教育実習を行わせていただいた。全10回の授業を持ち、導入として、山之口貘の『存在』を取扱い、〈僕〉とは何なのかということを考えた上で、井伏鱒二の『黒い雨』を9回にわけて読んでいった。今回のテーマは、いかに今我々が住んでいる現在が平和であるのかといったことだけではなく、いかに自分達の世界とはかけ離れた世界を読んで、それを自分達と結びつけることができるかということにあると私は思っている。
 生徒たちには宿題として『黒い雨』の感想を書いてもらった。個人情報には十分に配慮している。生徒たちの感想は、大人である我々が読んでも、はっとさせられるほど鋭い指摘や考えがつまっており、これを私の手中に収めておくにはもったいなく、多くの人の考える材料になると判断したため、ウェブ上にこのような形で掲載させていただくことにする。
 生徒に対しては個別にフィードバックをしているが、全体としてのフィードバックは分量の都合上できなかった。これを以てそれとしたい。



 感想を書き終えたら終わり、ということにしないでほしい。感想は飽くまでも途中の段階での報告に過ぎない。一通り10回分の授業が終わり、それを受けて感じたこと、考えたことを書いてもらった。そのなかで見つけた視点や、問題点をこれから君たちが持ち続け、9月の研修旅行でより深めて行ってもらわなければ意味がない。
 そのためにも、個別にはそれぞれ考えを深めてほしい点などを書いて返却したが、全体評を述べておきたい。

 今回の感想文では、私は次のようなポイントを高く評価した。
・戦争や原爆といった私達からかけ離れたものをなんとか自分とつながりのあることがらとして捉えようとしている。過去の ものではなく、現代にも通じるものとして、捉えようとしている。
・また、それに対して自分は何ができるのか、何をしなければならないのかを考え、具体的に提示できている。
・描かれていた登場人物に感情移入することができている。少年に感情移入していることも重要だが、父の立場に立ってみたり、おばあさんの立場に立ってみたりすることができている。

 10回の授業を受けて、どんなことを感じたか、考えたか、またどんな意見を持ったか、感じ、考えたことに対してどう自分はアクションするのか、そういう部分を評価の基準にしている。
 単に授業の内容の要約や、物語に書かれてあったことをさらっただけの感想はあまり評価できない。それは誰でもが書けるものだからである。〈僕〉は〈僕〉何だという通り、〈自分〉の考えや意見を書いてほしかった。

 いくつか生徒たちの感想を引用しながらみんなももう一度考えてみよう。
〈私は戦争とかは自分には関係ないし、知りたくもないと思っていました。しかも、自分は戦争なんて経験なんてしていないし、本も読んだ所で分かったふりをするのが面どうだったからです〉
 これはある生徒の感想だ。衝撃的な内容ではあるが、自分の気持ちを正直に書いていてよろしい。当初このような感想を抱いていた生徒は多かったのではないか? 私だってもちろん、面白おかしく授業をやりたいという気持ちはある。何もこんなに暗くて悲しい物語を取り上げなくてもいいじゃないかとも思ったものだ。だが、そうではない。私自身授業を進めていくうちに、これは伝えなければならないというものが見えてきたりした。それは生徒たちにも伝わったようだ。他の生徒は〈しかし、だんだんと読んでいくうちに「何故こんなことに」など深い悲しみを感じ〉たという。他の生徒からも「興味深い」といった意見が出た。

 ただ一つ気になる点がある。多くの人が「伝えていなかければならないと思った」、「伝えて行きたい」といった言葉を使うのに対して、一部の生徒からは「伝えて行ってほしい」「二度とおこらないでほしい」といった消極的な態度が見られることだ。もちろんまだ中学三年生だ。社会に出たこともない。自分が何を出来るのかということもまだよくわかっていないだろう。わからないなかで、なんとかそうして欲しいという願いをしたくなるのはよくわかる。だが、いつまでも「~してほしい」という態度ではどこかに無理がくるのではないかと私は思うのだ。是非「~してほしい」から「~したい」に変わることを願う。

 もう一つ気になる点がある。それは、戦争反対に対して利益になるものが何もなく、害しか生まないから戦争をしてはいけないという感想があることだ。一見非常に論理的に思われるのだが、この論理だと、たくさんの利益を生みだして、害をほとんど生み出さない戦争というものができるようになると、戦争を反対する理由がなくなってしまう。
どうやら損得でものごとを考えていると、戦争に進んでしまう危険性は取り除けないようだ。戦争に反対するならするなりに、もう少し損得以外の尺度で考えて行かなければならないようである。

内容別にまとめて感想を見てみよう。

研修旅行に向けての心構え
・〈平和について教えてもらってきます。原爆ドームもしっかり目に焼き付けてきたいと思っています。楽しむだけでなく、この「黒い雨」の文章と(省略)授業を思い出しながら広島の人の話を聞きたいと思います。〉

生き方が変わった生徒
・〈これを読んで平和な時に生まれて本当によかったと思っています。昔の戦争の時代に生まれた人は、着てみたい服を自由に着れなかったり、食べたい物を好きなように食べられなかったり、みんなが不自由な生活をすごしていたと思いました。だから僕は平和な時そして平和な国に生まれてこられたので、これからの人生でできることは全力でやっていきたいと思います。〉
・〈ボロボロになりながらも前向きに生きようとしている所、私も見習いたい〉
・〈どこか自分の身の上には起こるはずも無いと他人事のように考えている自分に気づき、少し情けなくなりました〉

存在の大切さ
・〈人間一人一人にちゃんとした人生があることを考えてほしいです。〉
・〈私はたまたま平成という時代に生まれて、私はたまたま東京で生まれました。原爆がおちたその時に広島に居て、生きていたらたぶん私は死んでいると思います〉
・〈そう考えると自分が今、存在していることが奇跡のように思えてくる。これから人生を歩んでいくうえでこの幸せをかみしめて生きていこうと思う〉

戦争批判
・〈原爆とは日本の負の歴史なのである。日本人はそれを背負っていきているわけである。日本国民はこの負の歴史を永遠に背負わなければならないのである〉
→これはまさしくその通りなんだ。すべてのことは無駄ではない。「失敗は成功のもと」という言葉もあるように、確かにこれだけを切り取れば「負」でしかないわけだが、それを今、それから未来の平和に結び付けられた時、その「負」は「負」ではなく、「正」を作り出すためのプラスに変わっていくのだ。

・〈自分の国の負けた話など、知りたくもありません。ただ、戦争によって引き起こされた悲劇には目を反けてはいけないと思います。嫌いでも何でも体験した方の本などは、僕らが大人になってから戦争を引き起こさないために必ず、読んだ方がいいと思います。〉
→ただ、心が繊細でどうしても背けなければならない時には背けるのも仕方ないとも思う

・〈戦争を始めたのは、総理大臣や政治界の大きな権力を持っていた人達ですが、その人達に何も言えなかった人達も責任があると思います。そのとき国民全員で戦争をやめさせる様に言えば戦争はとめられていたかも、しれません〉
→その通りだ。これは他のことにも言える普遍的な問題かもしれない。例えば身近なところで言えばいじめ問題だ。もちろんいじめをした人間が一番悪いことには悪いのだが、それを知りながら放っておいた側にも責任がないとは言えないのだ。このように、いかに自分は関係ないと澄まして、現状を悪化させるよりは、いかに自分にも責任があるのだと考え行動したほうが世界はよりよくなるだろう。
 またこの生徒はするどい視線の持ち主で、〈日本も中国や朝鮮などの人々をつかまえ、人間とは思えぬあつかいをしていた様です。なので戦争には誰がいけないとかはないと思います〉と述べている。
 これは大人でもなかなか持つことのできない視点だ。テレビを見てみれば、真っ赤な顔をして、どこどこが悪いと怒鳴り散らしている大人たちの姿が見える。しかし、どちらかが一方的に完全に悪いという場合はそうない。ケンカを考えてみればわかるはずだ。どちらかがケンカをふっかけたとしても、それをふっかけさせる原因をその人もつくっていたはずなのだ。原爆を落としたことは確かにアメリカが悪いのだが、だからといって戦争すべての責任がアメリカにあると、一方的に憎むことは事実を曇らせるおそれがある。自分達もひどいことをしていたという視点を忘れないことが、これからの多様な世界を可能にしていく視点だろう。

今後の自分の行動
・〈日本は世界の国で唯一、原爆の被害をうけました。このことを、きちんと伝えて行きたいと思います。〉
・〈唯一原爆を落とされた国として原爆の悲惨さを伝えていくべきだと思いました。〉
・〈これから自分は原爆の事を勉強して、二度と戦争が起こらないような世界をつくっていきたいと思いました。〉
・〈多くの人が亡くなっています。私たちは、戦争を体験した年代ではありません。だからこそ、私たちがしっかり理解し、学び、語り伝えなければなりません〉
・〈当時の人たちが何を思って生きたのかなんて、どんなに戦争について書かれた本や資料を読んだところで、きっと経験していない人には分からないだろう。それでも、それらの本を読むことは戦争の知識や同情の心は芽生えるだろう。それがたとえ戦争の半分も分かっていなくても、わたしたちにとってとても必要なことだし、もっと人々に話して継げていくべきことなんだな、と思う〉
・〈もし、『黒い雨』などの戦争のことをかいた本がなかったら、戦争の恐ろしさを知らない人達が、また戦争を起こすかもしれません〉
・〈僕はその人たちの死をむだにしないで、継続的に国内にも海外にも、平和を訴え続けなければ、戦争で死んでしまった死がむだとなってしまうと思いました〉
・〈この作品は僕たちの世代だけでなく僕たちの孫の世代、さらにその孫の世代と語り継いでいかなければならない作品だと思いました。なので僕はこの作品を色々な人に広めたいと思います〉
・〈あれだけの教訓を後世(前の世代の間違いか)から伝えてもらったのに、また戦争・原爆という惨禍をしようとしているのが不思議でならない。僕は、この平和主義という絶対的な盾をみずから手離したくはない〉
・〈平和を維持するためには原爆や戦争を怖がっているだけではダメなんだと、たとえ小さな事でも出来ることがあるならしてみようと思いました〉

「今」の問題として
やはりこれだけ自分達の住んでいる世界とはかけ離れているものを、自分達や今の問題として捉えることができているのはすばらしいことだと思う。こういう想像力をみんなには身に付けてもらいたい。

・〈原爆のかわりにもなってしまう原発も一見便利であるが、事故が起こると原爆のようになってしまいます〉
・〈今、私たちが戦争の話を直接、体験した人に教えてもらわなければならないと思いました〉
・〈今、現代の戦争を知らない人達ができることは忘れないこと。二度とくり返さないことだと思います〉
・〈昔の人は戦争を嫌がることすら許されない世界だったけれど、今の私たちには発言する権利があります。だから、この広島にあったことをみんなが忘れてはならないし、そのことをたくさんの人に伝えられたらいいなと思います〉
・〈僕たちは昔こういうことがあったと考えるんじゃなくて二度とこういうことが起きない為にはどうすればいいかを考えていくことが自分たちが今すべきことだと思います〉
・〈今も戦争を続けている国や爆弾やミサイルなどを所持している国がある。だから私たちはそれらの国に、原爆のもたらす被害、また実際に原爆をうけた先人たちの思いを語り続けなければならないと思った〉
・〈原爆や戦争反対の意識がうすれていっている今、祖母たち(この生徒の祖母は被爆者だそうだ)の体験が無駄にならないように、原爆と何らかの関わりがある私のような人が先陣をきって、うったえねばならないと思う〉
・〈東日本大震災という想像が出来ないことなども経験して、今僕たちはなにが出来るのかということを考えていきたいなと思います〉
・〈私たちは、戦争を起こしたくない。この悲劇をくり返さないことが、今の私達のできることだと思う〉
・〈東日本大震災で原発の放射能がもれた時と同じように、今もなおこの後遺症に苦しめられているんだと思う〉
・〈戦争の悲しみはもう取り戻せるものではないので、再び同じことが起こらないようにしなければならない。(中略〉今は再び戦争が起こることのないように務めたいと思います)

日常と異常と幸せ
・〈今の日常の大切さがわかりました。(中略)勉強や遊びを普通にできていることを尊く思い、一日一日を大事に過ごしていきたいと思いました。〉
・〈自分が今平和な世界に生きられていることが幸せなことなのだと気付きました〉
・〈人類が二度と侵してはならない戦争によって私たちが今平和に生きれているということに気付かされました〉
→私はキャリアガイダンスの時にも「幸せになってほしい」と述べたが、その幸せについては何も言及していなかった。もし、幸せというものがどこか遠くにあり、ごくわずかなトップの人間しか得ることのできないものだと考えている人がいたら、少し考えを変えてみよう。幸せというのは、本当に自分から遠いものなのだろうか。もちろん、ある側面では自らが勝ち取っていくものもあるだろう。しかし、今自分があたりまえのように置かれている環境、状況を一度考えて欲しい。それらは本当に「当たり前」なのだろうか。私達は幸いにも、文学や歴史といったものを学ぶことができる。そこから私たちは私達の当たり前とは違った世界を覗くことができる。そして自分を振り返ってみた時に、自分たちの当たり前がいかに当たり前でなかったかに気が付くことだろう。そうしたものが本当に見えてきたとき、あなたは幸せの別の側面をも発見できるだろう。

・〈自分の幸せのために、他人の幸せを奪うなんて、あってはならない事だ〉
→これが幸せの基本ルールなのかもしれない

最後にこの感想をまとめるにあたって、とても美しい祈りにも似た言葉でしめくくりたい。

・〈今日こうして透明で美しい雨がふり、白い雲が浮かんでいる青い空の下で生きていることが当たり前になっている平和が、永久に続きますように〉

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黒い雨

 素晴らしい仕事をされましたね。拍手を送ります。

Re: 黒い雨

石崎さん、いつもコメントありがとうございます。とても励みになります。
自分で考えることができるようになるように、少しでもお手伝いできたかと思います
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Author:幽玄

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