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上田和夫訳『小泉八雲集』 感想とレビュー 八雲に学ぶ、生者と死者の向かい方

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-はじめに-
 この本と出合ったのは、今年の初めのほうでした。震災から、二年を迎えようとしていたころに、一体どのようにして、私たち生き残った者、生者は、死者と向き合ったら良いのだろうかとずっと考えていたのですが、ふと、そんなことを考えている頃にこの本と出合いました。ちょうどその頃、桜庭一樹の『無花果とムーン』や『傷痕』という作品も読んでいたものですから、桜庭さんも彼女なりに、喪失というものと向き合っていたのだなと感じていました。先の震災の後、文学の世界に限っても、それぞれの作家が、独自の感性と個性で震災と向き合っています。先日話題を呼んだ村上春樹の『多崎~』も、震災と思われることが、ちらと書かれています。このように数行触れるようにしている作品もあれば、雑誌新潮で掲載された、綿矢りさ『大地のゲーム』のように、真正面から震災というものに立ち向かった作品もあります。
 先日偶々、海外が日本の震災をどのようにリポートしていたのかという映像をネット上で見ました。そこでは、福島の被災した人々をインタビューした映像が流れていたのですが、彼らの報道の内容は、日本のそれとは異なっていました。リポーターの方が言います。日本人は、震災によって、家族も財産も全て流されてしまったというのに、絶望、悲観することなく、力強く生きていると。我々西洋人は自然に対して人間の科学力を持ってコントロールしようとしているが、日本人はそうではない。日本人は我々とは反対に、自然と一体化することによって生きて来た。だから、今回の震災でも、彼らは激しく落ち込むことなく、毅然として復興に向かっている。私はこの映像を見て、海外の人には日本がそのように写っていたのかと思いました。日本は確かに自然と一体化とまでは言わなくても、共生しようとしてきたことは確かだと思います。
 今回取り上げるのは、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の『小泉八雲集』です。

-ラフカディオ・ハーン=小泉八雲とは-
 小泉八雲(1850年- 1904年)はギリシア生まれです。しかし、父はアイルランド人、母はギリシア人です。八雲自身が、こうしたハーフであったことから、様々なアイデンティティの苦悩もあったことでしょう。日本へは、新聞記者として派遣されます。しかし、すぐに会社に絶縁。日本での友人を頼り、島根の松江中学で英語教師として赴任します。その後、日本人の女性と結婚し、名をラフカディオ・ハーンから小泉八雲と変え、没するまで日本で暮らします。その間に、日本の古い伝記や物語に興味を持ち、それを集めるかたわら、仕事を見つけては、海外に英語で日本のことを紹介していたようです。当時から、ハーンの紹介によって、日本の文化というものは、多くの外国から興味が持たれていたようです。
 ただ、ハーンが好き好んだのは、日本といっても、当時の日本ではなかったようです。本作の後ろにある上田氏の解説によると、〈「真実なものは古い日本でした。わたしは新しい日本を好むことができません」と、八雲は絶望にかられながらも、新しい日本を直視しようとしている。そして、古い、美しい、霊的な日本が、教育その他の面における西洋化によって失われていくのを悲しみつつも、結局、日本の近代化を推進し、新生の独立国家として国際社会に地歩をすすめる唯一の力が、新しい日本の中にしかないことを認めざるを得なかった。〉アメリカもイギリス人が移住したということを考えると、西洋文化なのでしょう。すると、殆どが西洋文化であった当時の世界情勢で、鎖国を続けていた日本はやはりかなり遅れていた。そして、列強その他と同等の地位を持つためには、どうしても早急に西洋化したものを取り入れなければならなかったのです。これは誠に不幸なことですが、そのために、近代化をしている最中、多くの日本の文化が失われていったのでしょう。そうして、そういうものというのは、灯台下暗しであり、当時の日本人のなかにはあまり気づく人が居なかった。それを小泉八雲は現代でも怪談などを研究する際の最重要な資料たるものを残してくれたのです。
 本作の所蔵されている作品はその理由を編者である上田氏が書いていますが、八雲が残したすべてのものではありません。主要なものだけです。目録は以下。
『影』
和解・衝立の乙女・死骸にまたがる男・弁天の同情・鮫人の恩返し
『日本雑記』
守られた約束・破られた約束・果心居士のはなし・梅津忠兵衛のはなし・漂流
『骨董』
幽霊滝の伝説・茶碗の中・常識・生霊・死霊・おかめのはなし・蠅のはなし・雉子のはなし・忠五郎のはなし・土地の風習・草ひばり
『怪談』
耳なし芳一のはなし・おしどり・お貞のはなし・乳母ざくら・かけひき・食人鬼・むじな・ろくろ首・葬られた秘密・雪おんな・青柳のはなし・十六ざくら・安芸之助の夢・力ばか
『天の川物語その他』
鏡の乙女
『知られぬ日本の面影』
弘法大師の書・心中・日本人の微笑
『東の国より』
赤い婚礼
『心』
停車場にて・門付け・ハル・きみ子
『仏陀の国の落穂』
人形の墓
『霊の日本にて』
悪因縁・因果ばなし・焼津にて

 このように、八雲が発表した作品集のなかから、主要なものを集めて来たというものです。ご覧のように、非常にタイトルが多いです。すなわち、どれも短編。上田氏の訳も見事な日本語ですし、短編で、しかも私たちが一度は聞いたことのあるような日本の昔話がたくさん。とても読み易く、そして面白い作品です。

-描かれる「日本らしさ」-
 死者と生者の交わり、交流。あるいは生者はどのようにして死者と向き合って行ったら良いのかという問題は、この先ずっと続くでしょう。大震災が起こったために、この問題が急速に浮上してきたということもできます。近代化してはや100年。しかし、この西洋の知識では、どうにも東洋の霊魂観というものを考える際には無理が生じるようです。仏教をキリスト教的に解釈しようとしているのと似たようなことですから、やはり価値観の矛盾が生じると思います。この八雲集のなかには、日本の霊魂観というもののエッセンスが詰まっていると思います。今、この八雲集を読むことは、それを読んだからといって決して簡単に答えのでるものではありませんが、生者と死者との間をどのようにして考えて行けばいいのか、その思考の際のかなりの手引きになると私は思いました。
この作品は、八雲が日本で聞いた話を英訳したものをさらに後になって上田氏が日本語に再び訳したというものですから、二度の翻訳がかかっています。上田氏は八雲の文章を壊さないように気遣ったためか、重りがポンドで表されていたりと、どこか不思議な部分があります。どれも短い話なのですが、体言止めをしたかのように、はっと終わる。余韻が残されるのです。そうしてその余韻とは、どれも、言葉で簡単に説明できるようなものではありません。深い思索や感慨にふけっていくような、そうした重みももっているのです。
 一つ取り上げましょう。『日本人の微笑』は、作中では長い方です。これは、なにか物語というものではなく、八雲の日本文化論といったものです。日本人の微笑が、西洋の微笑とどう違うのか、実際の例を挙げて説明しています。なかでも、下女と思われる女性が、主人であるハーンの友人に対してした行為の話をするのが印象的です。その女性は、主人の葬式に出たいと言って、暇乞いをします。そうして、遺骨になった主人を持ってきて、これが主人ですと笑ったというのです。ハーンは、これに対して、その女性は主人の死を喜んで笑ったのではなくて、辛い想い、悲しみを内包しながらも、それを他人には見せまいとして、微笑むという一つの文化なのだと言います。
 他にも、この微笑みの感じ方の相違から、イギリス人と侍との間であったある悲しい出来事を紹介しています。イギリス人に仕えている元武士の男が、とても忠義のある男なのですが、ある日何か二人の間に齟齬が生じます。怒るイギリス人、日本人の侍はただ黙って微笑みながら頭を垂れています。その微笑みがさらにイギリス人を怒らせる。そして、ついにイギリス人は老人をなぐりつけた。さっと顔色を変えて脇差しをきらめかせた侍。しかし、そのまま何事もせずに仕舞いました。何事もなかったかのように帰る侍。その晩、その老人は耐え難き屈辱を受けたとして、切腹してしまいます。老人はかつてイギリス人に金を借りたことがあり、そのことが恩義と感じられたのです。ですから、辱めを晴らすためにイギリス人を切るのではなく、すべてを自分で負うということをしたのです。
 だからといって、今の人間が100年前のような日本人の所作をしろというのではありません。ただ、かつての日本人がどのように外国人の目に映ったのか、そうした点を考える際には非常に役立つ資料です。そうでなくとも、面白い話題に富み、内容を追うだけでも十分に楽しめます。また、日本の怪談などの話では、現代人が考えなければならない死者との交わりがいくつも描かれていて、向き合い方、あるいは心の持ち方を考えさせる話がたくさん載っています。今、社会も大きく変化しようとしています。一度近代化する以前の日本というものを見るということをしてもいいのではないでしょうか。

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