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アニメ映画『パーフェクトブルー(PERFECT BLUE)』への試論 感想とレビュー 理想と現実の乖離と、自己同一化の問題

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-初めに-
 日本のメディアを論じる場合に、突出してすばらしい文化的、芸術的な作品を作っている媒体はアニメ映画であるということができるでしょう。限りある時間と資源のなかで、毎週毎週放送するアニメには、製作者たちがやりたくてもできなかったことというのがたくさんあります。お金をかけて作る、OVAやアニメ映画というのは、そうした製作者たちの全力が注がれている分、見るに堪える素晴らしい作品となっているのです。
 21世紀の素晴らしいアニメ映画のほとんどは、日本の者であると言う事が可能でしょう。アニメ映画を専門としている監督がこれだけいるのも日本くらいなものです。宮崎駿にしても、押井守にしても、そうして今回取り上げる今敏(こんさとし)にしても、まさしく天才と呼ぶにふさわしい芸術家たちです。
 眞に残念なことに、今敏監督は、2010年に亡くなっています。今監督の作品との出会いが遅かった分、監督が突然なくなってしまったことには、いまだにショックを隠せません。

-今敏監督を追う-
 今監督の作品の特色は何と言っても、他の監督では絶対に表現できない「イマジネーションと現実の融合」です。これは、監督自身が筒井康隆の作品に小さいころからずっと触れてきたということも影響しているでしょう。どこからが現実なのか、どこから幻想なのか、この境界線のあやふやな、白昼夢でも見ているような感覚が表現できただけでも、作品として完成しているという事ができると思います。
 今回取り上げる作品『PERFECT BLUE』(1997)は、今監督の初監督作品です。今監督の作品を追っていくと、2001年には以前取り上げた『千年女優』、2003年の『東京ゴッドファーザーズ』、2006年の『パプリカ』などがあります。しかし、監督となってから、あまりにも若く、早くなくなってしまったために、映画として作成された作品はこのくらいしかありません。
 今監督は、生前から「自分のエンジンはアルコールとカフェインとニコチンで動いている」とブログで公言するほどの不摂生な生活を送っていたらしく、そのことがかなり死因となった膵臓癌(膵癌)に影響していたのではないかと思われています。
また監督は、インタビュー記事で「また非常に現実的な問題としては予算とスタッフ集めということでしょうか。CGなど新しい技術の導入、スタッフの人件費のアップ、納得の行く制作期間を確保するためには作品ごとに予算が増えてくれなければ困るのですが、興行的に回収が難しいなどの理由で、予算を思うように確保できないのは辛いですね。」というようにこぼしています。http://web.archive.org/web/20090424071117/http://konstone.s-kon.net/modules/interview/index.php/content0003.html
これだけ素晴らしい作品を作っていながら、これが日本人の悪いところなのですが、メジャーにならないと日本人はお金を払わないのです。ですから、経済的な面で相当苦労されたようで、おそらく、それも監督への負担となって、監督を死に追いやったのではないでしょうか。ここから見えてくることは、メディアの功罪といった面もあります。外国に対しては、日本の新しい文化だなんだと上っ面の良いことばかり言っておいて、実際的には特に何も援助しない。そうして、例えばいわゆるオタクのような人間が犯罪を犯すと、アニメのせいだとか、ゲームのせいだとか、これまた民衆の聞きたいようなことしか言わない。とかく、日本人は個人で判断し、きちんと価値を吟味して、お金を払うということをしなければなりません。今監督の死から、3年が経とうとしていますが、私は今監督の死は、時代や日本全体に殺されたように感じられる分、そのように受け止めて行く必要があると思うのです。

-作品内容-
 今回取り上げる『パーフェクトブルー(PERFECT BLUE)』は、宮部みゆきの同名作品とは別ものですので、そこを注意する必要があります。筒井康隆の作品をアニメ化するなどしていた監督だけに、これも原作があり、それをアニメ化したのかと思われがちですが、この作品は脚本から行われた作品です。
 作品内時間は、作品が制作された時とおなじ、1990年代の後半。インターネットが普及してきたという背景を取り上げ、ストーカーやもモチーフとしつつ、時代や、その当時の自己といったものを鋭く描写しています。
 簡単なストーリーを説明しますと、もともとアイドルグループとして売り出した霧越未麻(きりごえ みま)は、アイドルグループで伸び悩むなか、一人アイドル脱退を宣言。女優の道へと進みます。しかし、女優としても目覚ましい活動ができるわけではなく、自分で選択しているのだと自分に言い聞かせながらも、事務所のいいなりで、レイプシーンを撮影したり、望まない女優生活を送ることとなります。それと同時並行して、彼女の身の回りでは不可思議なことが起き始めます。同時並行的に、当時の気持ち悪いオタクのような人間のストーカー行為の描写があり、かなり作品が複雑になってきます。これが今監督の素晴らしいところだと私は思っていますが、何度見返しても、これは誰の視点なのかというのが曖昧になるほど、複雑なつくりをしていながら、しかし芸術的なセンスをもって見事に調和しているのです。
 美麻は、当時普及する最中であったインターネット上で、美麻の部屋とよばれるサイトを発見します。最初は、自分になりすましたファンが勝手に作ったサイトだと軽く見ていた彼女ですが、彼女が自分の思っていた道とやっていることの乖離が激しくなるにつれ、だんだんとその内容が、理想の自分の象になってきます。本当にやりたかったことがそのサイトには事細かに描かれていて、鬱状態となりかけていた彼女にとっては、やりたくないことをやっているのが現実の彼女なのか、それともウェブ上の美麻が本当の彼女なのか、区別がだんだんつかなくなってきます。ここには、一人女優として転落した自分と比較して、アイドルグループとして成功の道を歩み続けているグループのメンバーたちの姿も重なり、ひとつのアイドル論としても成立していると私は思います。
 また、理想との乖離が進み、今やっている仕事がだんだんと嫌になってくると、彼女を女優の道へと貶めた人物たちが次々と殺害されていっているという事件が絡んできます。美麻はその殺人に関して、まるで自分がやっているかのような夢を見始めます。サイト上には、今でも輝いている自分が存在していますし、夢の内容から、自分は美麻ではなくなってしまったのではないかと思われてきます。だんだんと美麻という人間が分裂してくるように描かれます。

 最後にあっと驚くような内容が描かれるのですが、それはここでは云わないでおきましょう。この作品は、見事に当時の空気感や雰囲気といったものを炙り出しているのだと思います。そうして、この作品がアニメでなければならなかったというのは、日本ではR15に指定、外国ではほとんどR18に指定されている内容であるのを、正面から描写しようとしたからなのではないでしょうか。ここには、人間の醜い部分がかなり鮮明に描かれています。やはりそれを実写で表現するのはいろいろな面でかなり難しいことだと思われます。
 また、アニメだからこそ表現しえた部分として、現実と幻想のあやふやな境目です。これは実写では決してできないことです。CGを多用すればできるかもしれませんが、自然さがなくなります。ですからこの作品は、アニメの表現の可能性を追求した作品だともいえるでしょう。
 人間には理想と現実というものがありますが、この作品はまさにその部分を描き出しています。そうして、今なおこの作品を見ていてちっとも古いと感じない、むしろあまりの斬新さで驚くのですが、その新鮮さを失わないのは、10年前と現在でもほぼここに登場する人物の葛藤が変わっていないからなのだろうと思われます。
 現在ではウェブ上の仮想空間が以前よりかなり発達したために、我々人間は現実逃避としてかなり生活しやすい空間を得たとも考えられます。この作品では、ウェブ上の理想の自分とどのようにして折り合いをつけて行くのかという、自己同一化の問題でもあったのですが、この作品を今見て思うことは、このあまりにも苦しい社会のなかで、どのようにしてそれぞれの人間が自己同一化をしていくのかという問題だろうと思います。

-終わりに-
 この作品に登場するアイドル、なんと漫画家の江口寿史がキャラクターデザインを手がけています。彼の作品は、多くの人間が指摘しているように、彼の奥さんであるアイドルであった水谷麻里がモデルとなっていることが多いのですが、この作品に登場するアイドルもまた、水谷麻里がモデルかも知れません。
 この素晴らしい作品が、正当に評価されていないということは、非常に残念です。ただ、この作品にはひとつ欠点があって、それは大衆的ではないという点なのです。とかく大衆的でないと日本人は振り向きませんから、やはりメディアの功罪や、アイドルの在り方、ひいては人間の在り方など、この作品から感じることは多いと思います。

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幻想/妄想って面白いけど怖くもある

石野さん、こんばんは。
以前「千年女優」を観ましたが、「なんだこれは?どこまでがおばあちゃんの実際の人生で、どこからが演じた役柄なんだ?!」と、いい意味でしっちゃかめっちゃかに、振り回されました。
普段あまりアニメは観ないのですが、ストーリーも画も落ち着きや面白み、考えさせられるところがあり、「凄いなぁ」と好感触をもって観終えたのを覚えています。
「パーフェクト・ブルー」これは面白そうで、同時に怖そうでもありますね、人間の・・・いや、自分の・・・見たくない恐ろしい面を抉り出しそうで。
丁度、毎朝観ている朝ドラがアイドルになるならないってやっているので、そういう意味でも生々しくて、興味と畏怖とが同時に湧いてきます。

それにしても「太く短く」の監督ですね・・・文化にももっと助成があればいいのに。この手の分野に手を差し伸べられるのは、いつまでも一番最後になるんですかねぇ。

No title

燃朝さん、コメントありがとうございます。
「千年女優」をご覧になっていたんですね。あの作品もすばらしいです。今回取り上げた「パーフェクトブルー」はちょっと怖い話です。今さんのデビュー作ということもあり、これも一見する価値のある作品です。今さんのアニメをもっと見たいのであれば、そのほかにも、「パプリカ」という素晴らしい作品がありますから、是非おすすめします。

本当に今監督の生きざまは「美しく短く燃え」といった散りざまでした。残念でなりません。アニメにも助成がなされるべきだと私も思います。経済で立て直そうとしているようですが、そんなの人口を考えれば、中国に負けるにきまっているのですから、日本は文化的な側面を盛り上げるように方向変換したほうがいいと思うのですがね。なかなか偉い方たちはそうした面がわからないのですかね。

初めて投稿致します。
レビュー拝見しました。
映画も素晴らしかったですが、それに負けず劣らずのレビューで驚きました。 とても読みやすく、解り易いです。また、意見や考え方も自分の思い描いていたものを、文字におこしてある様で、共感致しました。
今後もレビューの方楽しみにしております。

Re: タイトルなし

初めてましてデデさん。
とても好意的なコメントありがとうございます。先日、心無いコメントを頂いたことがあり、少し落ち込んでいたのですが、とても励まされました。
デデさんのこのようなコメントが、これからの励みになります。今後ともよろしくお願いします。

No title

一年前の記事にいきなりのコメント申し訳ありません。
はじめまして。

最近この映画を観て、いろいろな方のブログを拝見していたところ、とても落ち着いていてすてきな記事だったので御迷惑かも知れませんがコメントさせていただきました。

後半は今敏さんが好きだと仰っていたディックの作品のように、悪夢のような作りで、どこまでが本当かわからなくなりましたが、本当に芸術的で置いていかれることなく観られました。
光の陰陽などがとてもリアルだからこそ、内側から追い詰めてくる虚構の世界が際立って恐ろしいのですね。

これからも素敵な記事を拝見させてください。

Re: No title

素敵なコメントをありがとうございます。
こうしたコメントに支えられてブログを続けていくことが出来ています。これからも是非この記事を読みました、ということだけでもお伝え頂くと本当にありがたいことです。
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