朝井リョウ『何者』試論 感想とレビュー 「何者」から見る現代就活生の現状 ~1~

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-初めに-
 第148回直木賞を受賞した朝井リョウの「何者」。同時受賞は、安部龍太郎氏の「等伯」と、芥川賞では話題を呼んだ黒田夏子の「abサンゴ」です。メディアでは75歳の黒田夏子と、直木賞は戦後で最年少、平成生まれ初の朝井リョウという見出しで話題を呼びました。
 年齢が近しいということもあり、また今回の作品は現代の就職活動の現状を見事にあらわしていることから、今回は私個人の大学生としての感覚も取り入れての作品紹介、考察文にさせていただきたいと思います。
 私もこのような評論めいたものを書くような活動をしていますから、どうして朝井リョウのような私とほとんど歳のかわらない人間が直木賞を取るのだろうかと最初は驚きというよりも、多少嫉妬ににた感覚を持っていましたが、この作品を読んで直木賞を受賞した意味が理解できました。私の文学部での教授は、彼はこの作品を超える作品はもうかけないのではないかなと感想を述べられていたのですが、その点私も同意したくなるほど、すばらしい作品です。
 直木賞の概要だけ説明しますと、直木賞は芥川賞とおなじく、上半期、下半期に出版、発表された作品のなかからそれぞれ日本文学振興会というところが勝手に選ぶ日本で最も有名な文藝賞です。芥川賞が新人・純文学の作品に贈られるのに対して直木賞は著名・大衆的な作品に贈られる文芸賞です。ですから、私個人としては、何故浅井リョウに芥川賞をあげないのかなと思っていたのですが、ある意味与えそびれたのかなとも思えましたが、直木賞を与えるために時間的に稼いでいたのが実際だと思われます。この二つの賞はご存知の方も多いとは思いますが、応募できるものではありません。出版・発表されている作品のなかから、よさそうだなと思われるものが、選考会の委員のもとへおくられてきて、そこで決定するという、うがった見方をすれば、かなり厚かましい賞です。
 一般的に芥川賞は一発屋と言われているのが現状です。もちろん芥川賞をとってからも作家として活躍している人も多いですが、それだけで消えてしまう人も多いのもまた事実です。それに対して直木賞は、著名で、現在売れている作家、中堅作家に与えられる賞ですから、これははずれがないと言われているのが実情です。また文壇の世界でも、直木賞を与えるのは文壇全体が残しておきたい人間というようなまことしやかな噂があったりもします。どちらにせよプロパガンダですから、文学を学んでいる人間はそこまでシリアスには考えていませんが、文学作品を普段読まない多くの人たちにとっては有効な手段であることは確かです。

-作品紹介-
 この作品、若くない世代が読み進めて行った場合どのような感覚を持つのかまだこの本を読んだ別の世代の人に聞いていないのでわからないのですが、同じ世代にとっては本当に腹立たしい、神経を逆なでしてくるような感覚におちいりました。
 先ず装丁から見てみましょう。現代文学を評論する際には、ハードカバー本の装丁も見る必要があります。文學部での専門的な評論ではそのような点には触れることはできませんが、ここは自由に読み解いていく私個人のブログなので、そうした点にも注意して読んでいきたいと思っています。表紙は、タイトルの他、目だけ書かれていない証明写真の絵が羅列されています。この時点から、証明写真であるということと、事前知識として就活の話だという情報がありますので、就活をする若者が登場するのだろうということが予想されます。また、目だけ描かれていない人々の写真の絵は、タイトルの「何物」が示す通り、その人物が一体「何者」であるのか見当が付きません。
本のもくじにあたる部分には、ツイッターのアカウントらしきものが6つ掲載されています。この6つのアカウントは、この物語に登場する人物たちのプロフィールでもあります。ツイッターの自己紹介の部分が掲載されていることになります。もしこのブログ記事をお読みの方で、どのようなものかわからなければ、左上の私のツイッターを見ていただくと、私の写真とともに簡単な自己紹介がされていますから、それが掲載されていると考えていただくと良いです。
 このプロフィールの時点ですでに、若い世代の私としてはイラッとくるところがあります。いわゆる大二病と言われるものがありますが、それを満開にしたような感じがします。大二病とは、ネットスラングで、中二病の大学バージョンと認識しています。中二病の特徴は、自分の世界に入り込んでいたり、北欧神話系の名前をやたら使用したり、血とか、契約とか神とかそうしたものを日常にとりこんでしまっている痛い感じの人たちのことです。大二病はそれの大学バージョン。大二病で特徴的といわれるのは、例えばやたらインターンシップやボランティア活動をしているアピールとか、すぐに自分たちの学生団体をつくるとか、クリエイティブな仕事をしていることをやたら主張するなどです。アジア圏に一人で旅に出たりするのも大二病だとか。中二病にしろ、大二病にしろ、これらは基本的に自分は他人とは異なっている、自分は今の生活を充実して送っているという他人への優越感や差異化を図ろうとする心理から生まれるのだろうと私は感じています。

 そんな大二病満開なプロフィールを持った人々が登場します。物語は俺という語り手の二宮拓人という人物の一人称で語られます。学年は後々わかるのですが、ここに登場する人物はいずれも大学5年生。それぞれに理由があり、4年生で就職できなかった人々が登場します。語り手でもある二宮拓人は物語最後に明かされますが、一年間就活をして失敗し、内定をひとつももらえなかっためにもう一年就活をしているという状態です。こうした情報は開示されないまま、ルームシェアをしている友人光太郎との日常から物語は始まります。御山大学という(二年からキャンパスが変わることや発音が似ていることからも青山大学がモデルかとも思われますが、ちなみに作者は早稲田卒です)大学に通っている拓人と光太郎は、ルームシェアをしています。そうしてひょんなことから光太郎の彼女であった瑞月という女性を通して、おなじアパートの上の階で恋人同士で同居していた宮本隆良とその彼女理香と出会います。物語はこの5人を主軸として進んでいきます。
 物語初盤は、就活へ向けて準備をすることになります。語り手でもある拓人は、のちに自分でもそれを鼻にかけていたことが描かれますが、分析力に優れていると思い込んでいます。その彼は、面接の準備をする理香と瑞月をみて、「就活がつらいものだと言われる理由は~そんなにたいしたものではない時分を、たいしたもののように話さなくてはならないことだ。自分を騙し続けることになるスタート地点が早くなる分、面接を受けることにはもうその点のつらさに麻痺することができるかもしれない」と感じ、「心のどこかがもやもやと黒ずむのを感じた」とあります。就活に向けて一生懸命準備している就活一年目の彼女たちをみて、彼は自分が去年も就活をしたということもあり、「こんな、自分の未来を信じて疑わない目が、日本全国そこらじゅうにある。それだけで、きゅっと心臓が小さくなる気がした」と述べています。この時点から、既に語り手である拓人は、ともに就活をする仲間である二人の女性に対して批判的な眼差しを向けていることが描写されます。

-隆良にみる現代学生にありがちな思考-
 着々と就活の準備を始める友人の女子たちをみて、「海外留学にインターンに、両手が武器でいっぱいのその姿は、開戦が待ち遠しくてしょうがない兵士」のように感じている拓人は、そのどこから湧いてくるのか不明なプライドをただ見つめています。拓人は一貫して「見ている」人間であって、彼もまた就活生であるということが一人称の語りですから、見事に隠されています。
 また、この作品を貫くもう一つの大きなことは、SNSの問題です。「アドレス教えて、という言葉に含まれるどこか疑わしいニュアンスは、『ツイッターやってる?』『フェイスブック』やってる?という言葉によって過去のものとなった。アドレス以上の情報がこれでもかと詰まっているものなのに、俺たちは、誰かと知り合ったらまずSNSのアカウント名を教えあう」と指摘されています。また、この作品でしばしば登場するのが、先にもくじの部分で挙げられたアカウントのツイートです。このツイートの内容が作品内で重要な意味を持ってくるのですが、ツイートの内容をそのまま描写して、それに対する拓人の分析というものが、また痛烈な友人批判になってきます。こうしたツイートをそのまま描写するという手法は、作家柳美里の手法に似ている部分があると私は感じています。物語内での手紙の全文を掲載したりする手法はありましたが、00年代あたりからは、携帯小説が流行したこともあり、そこに掲載される作品内作品(メタフィクション)的なものが、手紙の内容からメールや、ツイッターになったということが、注目すべき点だと私は思います。

 この作品は最初に6つのアカウントが登場しますが、そのなかの一人だけが作品内では直接登場しないという構造を持っています。まるで「桐島~」を読んでいるかのようにも感じられます。浅井リョウの作品で最も有名になったのは、「桐島、部活やめるってよ」ですが、この作品の中で主人公たるべき桐島は登場しません。主人公たるべき存在が直接登場せず、飽くまでその周りにいた人物による語りで外堀をずっと埋め続けるという不思議な小説だったのです。この作品でも、主人公拓人の友人であり、また劇団で一緒に活躍していたギンジという男は、直接は登場しません。しかし、拓人は、ツイッターでギンジのつぶやきを「見る」という行為をしていて、それに対して「寒い」と判断しています。
 ギンジは自分がやりたいのはこんなことではないと、大学とサークルをやめ、自分一人で劇団【毒とビスケット】を創立します。そこに書かれている内容は、「~新しい劇団を創りました。そのために今、自分にしかできない表現方法を模索しています。舞台は無限に続いています。俺はそれをどこまでも追い続けたい」と確かに一般的に見ても少々何を調子のってしまっているのだろうかという冷たい批判をしたくなるような文章が掲載されています。このギンジのブログやツイッターを「見て」、拓人はその批判を自分の第二のアカウントや2チャンネルで誹謗中傷するのです。

 また、この物語を巡り登場する人物は誰もが拓人からみたら痛々しい人間。特に中盤の痛々しさの大部分を引き受けている上の階に住む、隆良理香のカップルは、彼の目を通してかなり痛々しく思えます。中でも隆良は「俺は就活しないよ。去年、一年間休学してて、自分は就活とか就職とかそういうのに向いていないって分かったから。いま?いまは、いろいろな人と出会って、いろんな人と話して、たくさん本を読んでモノを見て。会社に入らなくても生きていけるようになるための準備期間、ってとこかな。原発があんなことになって、この国にずっと住み続けられるのかもわからないし、どんな大きな会社だっていつどうなるのかわからない。そんな中で、不安定なこの国の、いつ崩れ落ちるかわからないような仕組みの上にある企業に身を委ねてるって、どういう感覚なんだろうって俺なんかは思っちゃうんだよね。いまちょうどコラムの依頼とかもらえるようになって、人脈も広がってきたところ。ていうか逆に聞きたいんだけど、いまこの時代で団体に所属するメリットって何?」と持論を展開する人間です。しかし、これは私自身こうした考えには、多少賛成すべきところもあり、また現代のちょっとうがった若者に多くありがちな思想です。この人物は傍から見ると「痛く」描かれていますが、こうした人物はかなり多くいるし、またそうしたリアリティーを作品内に持ち込めたということがこの作家の強み、若さと鋭敏な感性なのです。
この隆良の持論はさらに続きます。「突き詰めて考えると、俺は、就活自体に意味を見いだせない。何で全員同じタイミングで自己分析なんかはじめなきゃいけないんだ?ていうか、自己分析って何?誰のためにするもの?俺なんかちょっと色々引っ掛かっちゃうんだよね」「数うかつするタイミングも自分の人生のモットーも何もかも、会社のほうに合わせていくなんて、そんなの俺には耐えられない」「俺は流されてたくないんだよね、就職活動っていう、なんていうの?見えない社会の流れみたいなものに」
 ここで堪り兼ねたのか、ただ傍観して批判するだけの拓人が、語りの内部においてですが、これに対して自分の意見を表明しています。「就職サイトがオープンする十二月一日が近づいてくると、就職活動は個人の意思のない世間の流れだと言い始める人が出てくる。自分は就職サイトに登録しなかった、というさりげない一言を利用して、自分は就職活動に興味がないちょっと変わった人間です、というアピールをしてくる人が出てくる。まるで、興味、関心がないことが優位であるというような話しぶりで、『企業に入るのではなく、何者かである個人として生きていく決断をした』という主張をし始める人が出てくる。~やっぱり想像力が無い人間は苦手だ。どうして、就職活動をしている人は何かに流されていると思うのだろう。みんな同じようなスーツを着るからだろうか。何万人という学生が集まる合同説明会の映像がニュース番組などで流されるからだろうか。どうして、就職活動をしないと決めた自分だけが何か知らの決断を下した人間なのだと思えるのだろう。~たくさんの人間が同じスーツを着て、同じようなことを訊かれ、同じようなことを喋る。確かにそれは個々の意志のない大きな流れに見えるかもしれない。だけどそれは、『就職活動をする』という決断をした人たちひとりひとりの集まりなのだ。自分はアーティストや企業家にはきっともうなれない。だけど就職活動をして企業に入れば、また違った形の『何者か』になれるかもしれない。そんな小さな希望をもとに大きな決断を下したひとりひとりが、同じスーツを着て同じような面接に臨んでいるだけだ。『就活をしない』と同じ重さの『就活をする』決断を創造できないのはなぜなのだろう。」

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