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映画『SKYFALL (007スカイフォール)』試論 感想とレビュー 過去と現在・胎内回帰をめぐる物語

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-初めに-
 007シリーズ50周年目ということで、今までよりも内容に重点を置いた作品となった今回の『スカイフォール』。今までのハチャメチャスパイアクションという点から少し遠ざかり、今までの歴史を感じさせる重厚な作品となりました。50周年ということもあり、時代や世代というものに主眼が置かれたのと、これまでの長い時間で触れられてこなかった諜報機関MI6の内面や歴史に触れることになります。
 私はまだ若いですから、ピアース・ブロスナンのボンドからしか知りませんが、それでも、長い歴史をただひたすら歩んできたのだなという感慨を感じることが出来ました。2012年秋の最も注目される映画の一つだったと思います。

-時代と世代-
 何よりもまず時代や歴史、世代というものが今回のテーマになりました。嘗ての冷戦時代から続けて来た映画だけに、ロシアやアメリカの諜報機関と戦うこともあったボンドですが、現在の大きな国家同士での戦いのなくなったある意味平和に思える世界では、MI6の存在というのはどこにあるのか、これを考えさせられる作品でした。
 作品内でも、イギリスの政府から、今MI6という諜報機関は時代遅れではないかとしてその必要性を説明しろと政府の人間に迫られています。今までの作品が明確な敵がいたのに対して、現在ではそのような大きな敵、目に見える敵はいないのです。だから一見すると、平和になったようにも見えますし、またこのような諜報機関が必要ではないだろうとも思えます。しかし、それに対してMは敵は集団ではなく、個人であるというのです。目に見えない個人が敵となる、それはつまり全世界に敵が存在するということでもあります。だから、諜報活動を行わなければいけないということなのです。
 今回の敵は元諜報部員のシルヴァという男です。ですから身内から敵が出てしまったということになります。それもMの失態とも言っていいものです。作品内においては、じゃあこのような諜報機関がなければシルヴァという悲運な男を生み出す必要もなくて済んだじゃないかということは可能ですが、そうではないのです。今回に限っては身内から敵が出てしまったということになりましたが、こうした諜報機関があることによって、攻撃の対象は一般市民からこの機関に集約され、市民を守ることにもつながりますし、敵をあぶりだすということにもなるのです。ただ、どちらにせよ、敵が変わったということは、それを諜報する機関もまた変わるということです。それが、今回のMからマロリーに指揮官が変わるということで象徴的にあらわされています。

 時代と世代について。この作品ではシルヴァだけが唯一例外として、過去と今の両方の性質を持っています。過去の男でありながら、現在の敵として脅威を発揮するシルヴァ。しかし、どうしてMI6を攻撃するのかというと、過去の確執があるわけです。Mに対しては愛憎の感情を持っています。シルヴァはかなりMに対して自分の母親的な存在としての認識をしていたようですが、母性を拒否したMによって捨てられたと思い込み、シルヴァはその母を殺そうとするわけです。
 ボンドは、今回過去の男として登場します。髭剃りをするのも、古いナイフを使い、ボンドカーも、昔のボンドカーを引っ張り出してくるという筋金入り。古き良きものを愛する男として、現在、今を求められている作品においてそれに拮抗するかのように存在しています。
 かつては老人が勤めていたQは、二十代後半か三十代前半と思われる若い男が担当になりました。ベン・ウッショーが演じるQは、現在のコンピュータオタクのような知識技術には洗練されているものの、まだ人間との関係性をうまく構築できていないような青年。これもまさしく現在の人間です。
 組織がどんどん現在化する中で、どうしても過去の人間は使えなくなってきてしまいます。そのために、過去の人間は入れ替えるか、誰かがサポートしなければいけなくなるのです。現在の人間としてQが登場しました。また、今回のボンドガールでもあるイヴは、現在の人間です。このイヴはしかし、誤ってボンドを撃ってしまうというへまをやり、戦闘要員からサポート要員へ移動します。この組織の中で過去の人間はボンドとMです。ですので当然Mは組織のトップとして過去の女が居られては困るわけですから、退陣を求められます。最後にMI6の組織のトップとなるマロニーはまさしく現在の男です。
 ただ、現在の中にも、過去を引きずった男としてシルヴァが登場します。ある意味では現在と過去と両方の性質を持ったシルヴァは過去最強の敵かもしれません。現在だけで立ち向かおうとするQやマロニーだけでは倒せない相手です。ですから、過去を背負ったボンドが戦うことによってはじめて勝てるということになるのです。

-母権的組織と胎内回帰-
 時代や世代というテーマのほかに、組織というテーマが今回は描かれていました。MI6という組織がどのようなものなのか、時代と世代が変わることによって変質するために、その組織の内部が少し描かれました。Mの上には持っと影になって出てこないような裏で糸を操っている人間がいるのかなと予想していたのですが、意外にも組織のトップはMそのままでした。組織というものを考えた際に、このMI6は母権的な組織であるということが出来るでしょう。エヴァの研究をしているので、ネルフという特務機関が実に父権的な組織であるということがわかります。通常の組織というのは、男性が主権となる組織が大半です。それは様々な企業や会社を見てもわかることです。男性による家父長的な制度が、日本だけでなく外国でも多く存在しています。その中で、MI6というのは、実は母権的な組織だということが判明しました。Mは、まさしくあの組織の母なのです。今までに登場したボンド全員の母でもあったのでしょう。
 シルヴァとMが過去に何があったのかをもう少し描いてもよい気もしましたが、シルヴァにとっては母と思ったMに捨てられたという感情があって、愛していながらも憎むという感情によってMの殺害を実行します。今回は敵が何か利害の関係があって登場するということではなくて、ただの母親に捨てられた子供が自分の母に対して振り向いてほしいだけがために復讐するという極めて人間的な私情によって突き動かされているものでした。ですから、Mは常に存在してきて、最後まで母でありつづけた最大のボンドガールとして考えることが出来るのです。今回のスカイフォールのボンドガールは表向きはイヴですが、本当のボンドガールはMだということなのです。

 そうして、組織に触れるということはボンドという位置に立つ人間をも描くということです。今までのボンドにどのような過去経歴があったのかはわかりません。しかし、今回のダニエル・クレイグの演じるボンドは、冒険の最後になって「スカイフォール」という故郷の地へ行くことによって、その過去が明かされます。
 古い名家の出身であったボンドは、その出生はどこかバッドマンのようでもあります。彼が古き良きものにこだわるのは、自分が捨てたと思っていた過去に対して、まだ何かしらひかれるものがあってそこから脱却できていないということなのです。この作品は、いくつかの点で胎内回帰の物語であります。一つには、ボンドが捨てて来た過去というものともう一度向き合うために、古い故郷の家に戻って、その中に閉じこもり敵を迎え討つという構図です。また、シルヴァにとっても、自分の母的な存在のMのもとへ形としてはかなり乱暴ながらも戻ろうとしています。MI6自体が実はMという母の胎内でもあったというわけです。ですから、Mが女性から男性に代わるということは、決して軽くない意味を持つと私は思います。思えば、ボンドが女性に対して多くの関係を持つのも、女性性、母性性を求めての行動とも考えることが出来ます。
 
-終わりに-
 ボンドは今回の作品で、自分の過去と向かい合うためにかつての家に閉じこもります。これが胎内回帰です。そうすることによって再び外界とのつながりを確立していくわけです。Mと共に過去を見つめるということは、自分一人ではできなかったので、自分の母なる存在に一緒にいてほしかったのだと私は考えています。そうして何某かの新しい関係を構築できたために、ボンドは母であったMが亡くなっても、再び戦闘に立ち戻ることが出来たのです。
 Mが口にした「傷ついたのはプライドだけ」という言葉は感動しました。Mは母でありながら、しかし強くあろうと男性的に振る舞っていたのです。その強さと弱さが一緒になったMという役がこれから見られないというのは非常に残念ですが、これも一つの時代と世代の変化なのでしょう。これからの007がどのように展開していくのかが愉しみです。

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