四畳半神話大系・四畳半王国見聞録 森見登美彦  感想とレビュー 四畳半に住む人必見の書

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森見さんの自他共に認める超絶技巧文の才能が顕著になったのは四畳半神話大系からだと言っても過言ではないでしょう。なんてったって帯に「無意味極まる超絶技巧を駆使した、登美彦氏史上もっとも厄介な小説(著者)」とあるのですから。
神話大系が05年に出版で、見聞録が11年ですからそのかん6年近くあいたわけです。しかし、森見さんはこの六年間に他にもかなりの本を出していますし、そのたびに一風変わった粋な小説を書いているのですから、ファンとしては四畳半に戻ってきてくれてうれしい限りですね。
では神話大系のほうから、「夜は短し歩けよ乙女」で出てきた樋口さんと羽貫さんのコンビが再登場します。そして彼自身申している通り、唾棄すべき友人小津の活躍がやはり癪に障ります。物語は主人公がほんの些細な選択でかわっていった物語を、何を選んだかによって様々に書き分けています。森見さんはしかし、選択では実は何も変わらないのではないか、その前にある人間の根底の何かが原因ではないかと深い洞察とともに物語を書いているような気がいたします。だってどの物語も序文が同じだし、それが超絶技巧文なのですから。あまりにもすばらしい超絶技巧なのでちょっと紹介。
「今やこんなことになっている私だが、誕生以来こんな有様だったわけではないということをまず申し上げたい。生後間もない頃の私はむしろ純粋無垢の権化であり、光源氏の赤子時代もかくやと思われる愛らしさ、邪念のかけらもないその笑顔は郷里の山野を愛の光で満たしたといわれる。それが今はどうであろう。今の私が笑っても、そこにはメフィストフェレスのごとき不吉な笑みがあるだけだ。鏡を眺めながら怒りに駆られる。なにゆえお前はそんなことになってしまったのか。これが現時点におけるおまえの総決算だというのか。まだ若いのだからと人はいうだろう。人間はいくらでも変わることができると。そんな馬鹿なことがあるわけがない。若人を甘やかしてはならない。ただでさえ三つ子の魂百までというのに、当年とって二十と一つ、やがてこの世に生をうけて四半世紀になろうとする立派な青年が、いまさら己の人格を変貌させようとむくつけき努力を重ねたところでなんとなろう。すでにこちこちになって虚空に屹立している人格を無理に捻じ曲げようとすれば、ぽっきり折れるのが関の山だ。お前はいまそこにある己を引きずって、生涯をまっとうせねばならぬ。その事実に目をつぶってはならぬ。私は断固として目をつぶらぬ所存である。でもいささか、見るに耐えない。」
これが1ページ分で、こんなのが300ページ近く続くわけだから著者もつかれるし読者も疲れるというなんというレベル。映画サークルみそぎやソフトボールサークルほんわか、秘密機関副猫飯店などなど、京都大学というより森身先生自身の奇怪な妄想がねじれに捩れてもはやねじれていないようにも見える。キーワードは黒髪の乙女とスポンジの熊のぬいぐるみです。

6年間森見氏がものを書き続けて至った結論は一体なんだったのか。その終局がこの四畳半王国見聞録であるとここに断言するのにいささかの躊躇も感じない。帯びには「諸君!-世界とは四畳半の内部にこそ存在しているのだ」とあります。
こんどの物語には所謂能力者たちが出てきます。なんだか明るそうな小説でしょ?全然明るくありません。この能力者方、その特異な能力のおかけで世間にもみくちゃにされ根性を根から腐らしてしまったため、能力を他人の役に立てることを潔しとせず、みな自分たちで作り出した宇宙的規模の妄想の中に閉じこもっています。主人公の数学的天才は自分の創造する数式によって、自分に恋人がいるという存在証明に挑みます。ほかにも、モザイクを消すことができる能力者や、心の変化により空間をも自在にへこますもの、マンドリンを片手にマンドリン辻説法をするもの、存在感というものが一切ないもの、誰が見ても睡魔に取り込ませる映画を作るもの、これらの能力者たちが織り成す物語は果たしていかなる結末を迎えるのか。
そしてこの阿呆なる天才たちの上に君臨するのが四畳半の神であり、阿呆神なのです。この神は自分の四畳半を日本の国土ほどの大きさまで内部拡大することに成功した大偉人。数多の能力者と神との接触、四畳半の運命はいかに。

背表紙から
森見登美彦
1979年奈良県駒市生まれ。京都大学農学部卒。現在、同大学院修士課程に在籍。
「太陽の塔」で第十五回日本ファンタジーノベル大賞受賞。
趣味は読書と映画鑑賞、および爽やかな友人たちとの小粋な語らい。
頭脳明晰で騎士道精神溢れる古今未曾有のもてもてナイスガイであると誰か一人でも言ってくれれば、それを潔く認めるにやぶさかではない。

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「四畳半王国見聞録」森見登美彦

狭小な正方形上に、無限に広がるこの王国。純然たる四畳半主義者たちによる7つの宇宙規模的妄想が、京都の町を震わせる! 阿呆らしくも恐るべき物語。 数式による恋人の存在証明に挑む阿呆。桃色映像のモザイクを自由自在に操る阿呆。心が凹むと空間まで凹ませる阿呆。否!彼らを阿呆と呼ぶなかれ!狭小な正方形に立て篭もる彼らの妄想は壮大な王国を築き上げ、やがて世界に通じる扉となり…。徹底して純粋な阿呆たち...

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この本を読んで、なんだかとってもホッとしました。
別に京都で学生時代を過ごしたわけでもないし、
あんな大学時代を過ごしたわけでもないんだけど、とても懐かしさを感じるのです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
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