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夏目漱石 「それから」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 その十一

sorekara (1)

この短いページの間で何があったのか、これは今まで『それから』の研究では触れられてきませんでした。
「三千代に逢わなければならないと決心」する直前の代助の行動
平岡夫妻の家の「塀の本に身を寄せて、凝と様子を窺」う代助
声と音だけを聴く  「下劣な真似」  ストーカーに似た構図
P268ℓ7「代助は夕飯を食う考えもなく、三千代のいる方角へ向いて歩いて行った。約二十分の後、彼は安藤坂を上って、伝通院の焼跡の前へ出た。~平岡の家の傍まで来ると、板塀から例の如く灯が射していた。代助は塀の本に身を寄せて、凝と様子を窺った。しばらくは、何の音もなく、家のうちは全く静かであった。代助は門を潜って、格子の外から、頼むと声を掛けてみようかと思った。すると、縁側に近く、ぴしゃりと脛を叩く音が聞えた。それから、人が立って、奥へ這入って行く気色であった。やがて話声が聞えた。何の事か善く聴き取れなかったが、声は慥(たしか)に、平岡と三千代であった。話声はしばらくで歇(や)んでしまった。すると又足音が縁側まで近付いて、どさりと尻の卸す音が手に取る様に聞えた。代助はそれなり塀の傍を退いた。そうして元来た道とは反対の方角に歩き出した。」
当時はストーカーというような言葉はありませんでしたが、今で考えたらストーカーのようなことをしています。今までの代助からはとても考えられないような行動をしています。この行動が決心へと繋がっていくわけですが、後に代助は自分の行動に対して反省しています。P269ℓ3で「下劣な真似」と自己評価しています。

代助の伝通院訪問
①初訪問「平岡の家」 平岡在宅 「平岡は机の前へ坐って、長い手紙を~」
P92で平岡の家に初訪問します。平岡の家はそれほど空間的に余裕がないので、お客を通す座敷と、主人の部屋である書斎が一緒になっています。これが少なくない意味を持つのです。
②200円の小切手「平岡の玄関」 平岡不在  座敷には上がらない
P133ℓ12「その時上り口の二畳は殆んど暗かった。三千代はその暗い中に坐って挨拶した~平岡は不在であった。~下女が帰ってきて」。二回目の訪問では、下女がその後に帰ってきているように、誰もいないなか二人で真っ暗な玄関で話しをしています。
③「紙の指環」 「平岡の家」 平岡不在
P207ℓ6代助は座蒲団を敷居の上に移して、縁側に半分身体を出しながら、障子へ倚りかかった。
「紙の指環」としてお金を渡しに行った際に、代助は座敷へ入りました。ここで初めて座蒲団が出てきます。これはお客用の座蒲団だろうと思われますが、代助は縁側と座敷の中間にある敷居のところまでわざわざ座蒲団を持っていって、随分奇妙な格好をしています。
④「平岡の家」 平岡不在
座敷に上がる
「平岡の机の前に、紫の座蒲団がちゃんと据えてあった。代助はそれを見た時一寸厭な心持がした」
なぜ「厭な心持」がしたのか?
P230から四度目の訪問をしています。座敷に通された代助は、そこで紫の座蒲団をみて厭な心持になります。「ちゃんと据えてあった」という箇所は、前も見て、その前にも見たものが今もちゃんとあるという意味だと考えられます。ですから、前にこの紫の座蒲団を見ているとしたら、③の時なのです。そうして③では、代助は恐らく紫の座蒲団を見て、そこから逃げ出すようにして縁側まで移動しているのです。
この紫の座蒲団は、三千代の夫の座としての象徴なのです。この座蒲団はもちろん定員一名です。だから、紫の座蒲団を見ることによって、代助は三千代の夫としてのポジションを認識せずにはいられないのです。そうして、時に人というのは誰か人が居ないほうが返って強く意識してしまうということがあります。紫の座蒲団というのは、平岡が居ない状態で余計に、三千代の夫というポジションを強調する象徴物として存在しているのです。
秘密の指環
P209ℓ4「少し及び腰になって、掌を三千代の胸の側まで持って行った。同時に自分の顔も一尺ばかりの距離に近寄せて、『大丈夫だから、御取んりなさい』と確りした低い調子で云った。三千代は顎を襟の中へ埋める様に後へ引いて、無言のまま右の手を前に出した。紙幣はその上に落ちた。その時三千代は長い睫毛を二三度打ち合わした。そうして、掌に落ちたものを帯の間に挟んだ」
秘密の指環を共有する場面ですが、ここは三千代との身体の接触は全くないのにも拘わらず、姦通、エロティックなイメージが連想される場面です。ここでは、紫の座蒲団から遠ざかりたかった代助の行動とともに、二人きりだけれども、不在の平岡の存在もまた認識せずにはいられないということが影響しているのです。平岡の視線、文学的に表現すれば紫の座蒲団の視線があるのです。ですから、第三者の視点があり、それによってエロティシズム、姦通のイメージがより強められたのです。明らかに代助は視線を気にしています。

⑤ストーカー的行為の夜  「平岡の家」 家に入らないで去る
代助の視覚は、物理的には塀がありますから何か見えているわけではありません。しかし、代助の脳内には、紫の座蒲団があり、そこに平岡が坐っているという光景を思い浮かべたのです。ですから、三千代の夫の座は平岡のもので、そうして自分は家に入れてもらえない部外者としての存在を認識してしまったのです。このことが、代助を決心へと駆り立てます。
⑥告白から三日目 「三千代の所」 平岡不在
P292ℓ16三千代はわざと平岡の机の前に据えてあった蒲団を代助の前へ押し遣って、「何でそんなにそわそわしていらっしゃるの」と無理にその上に坐らした。
②の際には来客用に坐っていたと思われる代助は、⑥では三千代の夫の象徴である座蒲団に坐ります。「わざと」や「無理に」という表現から、明らかに代助が紫の座蒲団の象徴性を認識していることはたしかです。そうして、ここでは蒲団と表記されていますが、もちろん座蒲団のことです。その紫の座蒲団、夫の象徴としての座蒲団に坐ることによって、
「代助の頭は次第に穏やかになった。」とあります。前はいらついていました。

同じ「紫の座蒲団」が、「厭」から「穏やか」に変化
この座蒲団は紫でなければいけないのです。

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