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夏目漱石 「それから」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 その五

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十四章
青山 P264ℓ14「姉さん、私は好いた女があるんです」
P260ℓ6「僕は今度の縁談を断ろうと思う」P266ℓ1「けれども代助は三千代に就ては、遂に何事も語らなかった。」
今まで煮え切らなかった代助が変化して、縁談を断ろうと思う意思を表明しました。そうして、自分には好きな女がいるんだという極めて重大な話を兄嫁にしています。しかし、ここでは三千代のことには触れていません。ですから、兄嫁側からすれば、その代助の好きな女性というのは独身だろうと考えます。まさか他人の妻だとは思いません。ですから、まだ事件や問題には発展しないのです。
父からの呼び出し
P298ℓ11「父は普通の実業なるものの困難と危険と繁劇と、それ等から生ずる当事者の心の苦痛及び緊張の恐るべきを説いた。最後に地方の大地主の、一見地味であって、その実自分等よりはずっと鞏個(きょうこ)の基礎を有している事を述べた。そうして、この比較を論拠として、新たに今後の結婚を成立させようと力めた。『そう云う親類が一軒位あるのは、大変な便利で、かつこの際甚だ必要じゃないか』と云った。代助は、父としては寧ろ露骨過ぎるこの政略的結婚の申し出に対して、今更驚ろく程、始めから父を買い被ってはいなかった。最後の会見に、父が従来の仮面を脱いで掛かったのを、寧ろ快よく感じた。」
終に本音を吐いた父。それに対して代助は寧ろ快いとさえ感じます。しかし、それを断ります。本音は父の最期の切り札でした。
P301ℓ6「貴方の仰しゃる所は一々御尤もだと思いますが、私には結婚を承諾する程の勇気がありませんから、断るより外に仕方がなかろうと思います」ととうとう言ってしまった。~P302ℓ1「じゃ何でも御前の勝手にするさ」と云って苦い顔をした。~「己の方でも、もう御前の世話はせんから」
ここで、初めに確認しておいた代助の収入源にもどります。お前の世話はもうしないということはつまり、もう毎月お金をやらないよということになるのです。ですから、代助はもう来月からお金はありません。路頭に迷うことになるのです。

梅子からの手紙

2、姦通罪と平岡の手紙
現在ではなくなってしまった姦通罪。しかし、この小説が書かれた時代には、姦通罪という罪がありました。これを理解して小説を読まないと読み間違いをします。
既婚者の恋愛は、今ではただの不倫になりますが、かつては姦通罪、刑事犯罪として扱われました。道徳や倫理の問題ではないのです。実刑が伴って、身柄を拘束されるのです。
平岡からの手紙
小説冒頭 代助あての短い葉書
小説最後 青山あての長い(二尺以上)封書
作品の冒頭と最後が同じ平岡の手紙で結ばれるという象徴的な作品です。
P340ℓ3「手紙は細かい字で書いてあった。一行二行と読むうちに、読み終わった分が、代助の手先から長く垂れた。それが二尺余になっても、まだ尽きる気色はなかった。」
何度も言うようですが、二尺とは60センチほど。この手紙は時代劇に出てくるような巻紙だと思われます。細かい字でくるくるめくっていっても60センチほど垂れて、まだまだ終わりそうにないのですから、相当長い手紙だと思われます。
おそらくこの手紙には、代助の姦通についての事柄が書かれているのでしょう。前日にこの手紙が平岡から長井家に送られたとして、P338ℓ5「八時過に漸く起きた~所へ門野が来て、御客さまですと知らせた」とありますから、比較的のんびりやに見えていた兄が、非常に早い動きを見せたことになります。朝八時に来たのですから、手紙を受け取ってすぐに来たことになるのだと考えられます。
姦通罪があった時代
人妻(結婚した女性)だけが貞操を求められ、刑事罰(懲役刑)の対象
ただし、夫による親告罪 夫が訴えない限り犯罪にはならない
この姦通罪という刑事罰は非常に男女不平等な刑法でした。求められる貞操は女性のみに存在します。夫の貞操は求められないのです。夫からすれば、相手が誰かの妻でないかぎり、自分に妻がいようがいまいが、誰とどんな関係にあっても罰せられないのです。
また、婦女暴行罪のように、被害者が訴えないと犯罪にはなりません。この際の被害者とは、自分以外の男と姦通している妻を持つ夫です。ここでは平岡になります。だから、平岡には代助と三千代を訴える権利があるのです。訴えない権利もあります。
この刑罰は夫婦の貞操ではなくて、妻だけの貞操を法律で定めたものです。ですから、現在では誰と不倫しても刑罰にはなりませんが、この時代は刑罰になったということを認識していないと、この作品は読み間違えます。
平岡は三千代と代助を訴える権利と訴えない権利を保有

平岡の長い手紙
兄と代助の会話
P340ℓ10「其所に書いてある事は本当なのかい」
「本当です」
「どう云う了見で、そんな馬鹿な事をしたのだ」
「こんな不始末を仕出かす位なら、今まで折角金を使った甲斐がないじゃないか」
「親の名誉に関わる様な悪戯をしている」
小説を読んでいくと、恐らく代助の三千代の関係には肉体的な接触はないだろうと読めます。そのような描写もなければ、暗示されている部分もありません。しかし、下線を引いたように、兄は代助が三千代に愛の告白をして、三千代もそれを承認したということだけをもって、姦通罪を犯してしまったと認定しています。そうして、それを否定しない代助をみて、絶縁します。
ここでは性的関係があったかどうかよりも、代助の三千代との愛の告白があり、くれないかと平岡に頼んだことが姦通となるようです。ですから、罪と訴える権利が平岡にはあります。
平岡による選択肢(手紙による示唆)
平岡はあの長い手紙でおそらく三つの可能性を示唆したと思われます。
*姦通罪で三千代と代助を訴える
*長井は実業界で名を知られた存在だから、その次男のスキャンダルを自分が所属する新聞を使って報道する
*長井家から金を(ゆすり)取って一切を闇に葬る
あれだけ長い手紙ですから、これに似た内容のことはたぶん書いてあったろうと考えるのが普通です。三つ目の可能性は、当然あからさまに書いたらゆすりで逆に平岡の立場が危なくなりますから、暗示して書かれていたかもしれません。
P342ℓ11「もう生涯代助には逢わない。何処へ行って、何をしようと当人の勝手だ。その代り、以来子としても取り扱わない。又親とも思ってくれるな。」(父からの伝言)
「おれも、もう逢わんから」(兄) 長井家からの義絶
ここで、代助と長井家の関係は断絶します。月々貰っていたお金もなくなりますし、父だけでなく兄とも絶縁しましたから、青山家からの永遠の追放になります。脅しや警告ではなくて、ここでは通告になっています。
P341ℓ12「御父さんやおれの、社会上の地位を思ってみろ。御前だって家族の名誉と言う観念は有っているだろう」
この作品を読む限りでは、代助は恐らく一度もお金を稼いだことがありません。これは『こころ』の先生とも同じですが、代助には彼自身がもっている財産はありません。代助のように生活力のない男が、追放されたらどうなるのか、働いたことがないのにも拘わらず、贅沢ばかりを知っている人間が困窮したらどうなるのか、長井家は代助がそのような状態におかれた際に何をしだすかわからないという恐怖もあって、月々お金を渡していた側面も少なからずあります。追放してしまうよりかは、月々に安定したお金を送ることによって代助が何かをしでかさないように制御していたとも考えられます。
話しがそれますが、太宰治という作家は、実家が大地主ですが、太宰が何かをしでかさないか不安で月々兄たちがこっそりお金を送っていたというふしがあることがわかっています。
ところが、姦通罪になると、罪人になる可能性が出てきます。そうすると家族に罪人が出ることになりますから、兄は、いそいで、代助が罪人になるまえに家族との縁をきってしまおうと遣ってきたのです。ですから、兄の行動は一貫して長井家を守るという点で安定しています。

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