アニメ映画『ねらわれた学園』への試論 感想とレビュー 他者との関係性―「自己」の存在・シャボンの膜、ATフィールド

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-初めに-
『ねらわれた学園』は、眉村卓作の同名小説を原作とした、2012年11月10日公開の日本のアニメーション映画。原作『ねらわれた学園』は、眉村卓のジュブナイルSF小説。1973年刊。
現在アニメ界では、今までのアニメにまつわること、例えばジャンルやキャラクターたちからアニメのあり方についてまで「問い」の時代であると私は考えています。この作品も、今まで何度も映像化された作品であり、今更どうしてアニメ化なのかという問題が生じてきます。この作品には、アニメの表現の可能性を提示するだけの力があり、アニメの新たな展望を示していると私は感じました。今回は『ねらわれた学園』について、様々な視点から論じます。

-時間を巡る物語-
『ねらわれた学園』は、前述のように何度も映像化されています。しかし、今回のアニメ映画版では、未来人による学園支配というテーマは踏襲するものの、他は新しい解釈、オリジナルストーリーとしての展開をしています。この現象は、この作品とよく似た作品で、同じような経歴を辿っている筒井康隆のジュブナイルSF小説(1967年刊)『時をかける少女』との比較が出来ると私は考えます。
ちなみに、このジュブナイル小説という日本小説の分類のひとつですが、現在ではヤングアダルトやライトノベルとの便宜上の区別がなされているものの、殆ど差異はなく、ジャンルとして実に曖昧な状態にあることを指摘しておきます。現代におけるライトノベルと考えても然程問題はないようにも思われます。
さて、この『時をかける少女』ですが、同時代作品であり、また様々な映像化が今までなされてきました。近年、映像化する際には、こうした今までずっと映像化されてきた作品というのは、原作の通りに忠実にやれば良いということではなくなってきます。また、当時オンタイムでその本を、映像を愉しんでいた人々の世代から、一つ、二つ下の世代にまで時間は経ちました。そうすると、製作者側としての自分たちより一つ上の作品ですから、どうしても時間の経過というものを認識せずにはいられないのだろうと思います。それが、原作の主人公だった人間の、子どもや孫が現在の主人公になるという構図を生み出しているのだと私は思います。
『時をかける少女』アニメ映画版や、2010年版では原作の主人公芳山和子の姪や娘が主人公となって活躍します。この『ねらわれた学園』でも、原作で主人公だった関耕児は、主人公の祖父として登場します。つまり、かつての主人公の孫が主人公なのです。
こうした世代を超えた作品が作られる背景には、もう一つ時間の問題が存在していると思われます。この二つの作品に共通するのは、どちらも時間の移動が描かれているということです。時間の移動は本来ありえないことですが、SF作品ではしばしば描かれます。
どちらの作品も未来からの来訪者が登場します。この作品では、未来は壊滅的な状態であり、その状態になるのを防ぐためにどこかで歴史を変えようというのが目的。この点歴史を変えてはいけないとする『ときかけ』とは異なる思想です。この作品では、最後に未来人が帰っていくのですが、記憶は消さずとも自動的に消えてしまうように描かれています。ある固体が、別の時間軸に移動したら、残された時間軸の人間はそのものの記憶を有していることが出来なくなるということなのでしょうか。この点原作を読んでいないので、まだ不安的な解釈です。

-ファンのための映画として-
やはり、アニメ映画の業界は世界が狭いといえば狭いです。ですからどうしても興行的にお客を入れなくてはいけなくなる。そんなことを意識しているかわかりませんが、この作品は様々な作品へのオマージュが散りばめられていたと思います。
先ず、これはファンの獲得のためでしょうか、ヒロインの涼浦ナツキの声は渡辺麻友(AKB48)が担当します。私はそれとは知らずに見に行ったものですから、最後にエンドロールを見てびっくりしたのですが、演技はうまかったです。何の違和感も感じませんでした。
いくつか感じたオマージュは、例えば新海誠作品。この作品はアニメの表現の可能性を新たに模索するための作品として位置づけられます。
―アニメ映画『ねらわれた学園』の試写会が京都の立命館大学で開催―より
http://megalodon.jp/2012-1118-0237-22/animeanime.jp/article/2012/11/11/12034.html
―中村監督は「実写ではなんども映像化されている中で、今の時代にアニメでやることの意義が見た人にわかるようなアニメにしたかった。」中村監督がアニメ業界に入ったとき、3DCGはほとんど使われていなかったが、現在はむしろ、「なぜ、いまになっても3Dでやらないの?」と言われる程、3DCGが使われるようになったという。そこで、2Dアニメの魅力を改めて示したかったとのこと。「写真のような背景ではなく、絵画的に描かれた背景や、リアル+αが可能な2Dの表現力によって、キャラクターの心情や、+αで自分が込めたい思いを示すようにしたんです。」と中村監督は2Dアニメによる表現方法の魅力について語る。
更に+αとして本作で表現したのは“青春”だったと中村氏。「“青春”は言葉として発するだけでも恥ずかしい位だが、アニメでは光や輝きにこだわることで自然に表現できた」と2Dアニメによる表現の可能性を改めて強調した。―

ここで監督は光の描写を行っているのです。この描写の仕方、特に冒頭は新海作品の表現と非常に似ているものがありました。
また、例えば舞台設定となっている場所が海岸沿いでヒロインの春河カホリがサーフィンをやっている姿なども、『秒速5センチメートル』の第二部のイメージが連想できます。他には、未来人の京極リョウイチ。どことなく達観した存在で、全てを知っているようで、飄々と生きている。またその白っぽい髪の毛や、甘い声などから、エヴァンゲリオンのカヲルを連想できます。
これらは、関係性がないと考えるよりかは、様々な作品へのオマージュとして考えたほうが自然だと私は思います。やはりキャラクターというのは、似る傾向があります。それは当然物語を作る上で、無から全てを作ることではなくて、様々な要素が様々な物語から集められているということになるからだと思います。ですから、私よりアニメの研究をしている人間が見ればもっと多くのオマージュを指摘することが出来るでしょう。この作品はそうしたオマージュをしていて、なおかつそこから躍進しようというのがテーマなのです。

-他者との関係性、シャボンの膜とATフィールド-
作品について、今回最も重要になるのは超能力です。この超能力は人類の破滅から救う力として京極がこの中学へもたらしたものです。能力は、人の心を知ることが出来るというもの。この作品の重要なテーマは他者との関係の構築なのです。
作品の冒頭、携帯電話で事件を起こし不登校となった山際ゆりこの自殺未遂から物語は始まります。携帯という媒体をよく考察された上で出来た作品と言えるでしょう。例えば携帯という媒体は私たちにどのような関係性をもたらしたのでしょうか。こうしたメディア媒体は過去にはなかったものです。原作にも当然登場しません。
作中では、シャボン玉の例が出てきます。シャボン玉はひとりひとりの人間である。人間は膜を張って生きている。しかし、それではいけない。他人が分かるようになって、人間の膜シャボンの膜をなくしてしまおうということなのです。
他者との関係を考えた際、私たちは他者のことを、本質的には理解できないということになります。それは私が他者ではないからです。あくまでも他者は、自己の内部における他者の像を理解するに過ぎないのです。ですから当然、その自分の中の他者と、現実の他者には食い違いが生じます。それが、例えば自分のことを悪口いっていたりした場合は、他者を信用することが出来なくなります。そうした悲しみから解放しようというのが、他者との隔たりをなくしてしまおうということになるのです。
ただ一つ指摘しておきたいのは、京極とカヲルの共通性にも関わってくるのですが、この作品がエヴァンゲリオンとある重要な部分で一致しているということです。エヴァンゲリオンも他者との関係性を巡る物語として読み解くことが出来ます。エヴァンゲリオンにおける、ロンギヌスの槍というのは、多くの指摘があるように、「自己」「ATフィールド」を破壊するものとして特殊性があります。そうしてエヴァにおける死というのは、「自己」の崩壊になります。これが翻って考えれば、この作品では「自己」の膜をなくすことによって、人格から解放されて、大きな存在としての人間になろうというわけです。ですから、ある意味では自己は無くなっていますから、死んでいるとも考えられるわけです。

この作品で注目すべきは携帯というアイテムです。これは、いま説明したような他者との関係性を象徴するものとして登場します。能力者となった生徒会の委員たちは、携帯の持ち込みを禁止します。というのは、それまで携帯は常に身の回りにあるものとして、学校のなかになくてはならないものだったのです。実際考えてみれば、私たちは携帯なしでも生きられるはずなのです。しかし、実情では携帯を手放せない人は思ったより多く存在します。携帯というアイテムは、他者との繫がりを意識できるアイテムとして存在していると私は考えます。この作品でも言及されていますが、他者との関係を常に構築していなければ安心できない、他者とつながっていない、自分は一人だと感じることが恐怖以外のなにものでもないのです。
そうして、その恐怖に負けた人間は、携帯の代わりに超能力を手に入れることによって、常に他者との関係の中に身をおくことができるようになるのです。自己と他者との区別、この作品で言えばシャボンの膜、エヴァで言えばATフィールドをなくしてしまうという話なのです。
それに対して自己がなくなることに恐怖を感じた主人公やヒロインたちは、彼等に対して反撃をします。今までなす術もなかったと思われた主人公サイドが、実は関ケンジは超能力者で、その力を祖父と犬シロによって抑えられていたことが示されます。
京極と戦うケンジ。ここでは、非常に解釈が多義的で難しいのですが、過去に何か事故があって、涼浦ナツキの能力とも複雑に関係してきます。結果的に、歴史を変えるように父から言われていた京極は、ケンジたちの幸せを考えてしまったがために、敗れます。京極はこの時代の人間から幸福を奪うことが出来なかったのです。
これは京極が春河カホリと恋をすることによって生まれた心情の変化が影響していると思います。京極は恋をすることによって、他者というものを認識してしまったのです。全員が超能力者になって、他者との境界線が崩壊すれば、当然恋もなくなるわけです。恋というのは、私は心理学者ではありませんからよくわかりませんが、ある意味では他者性というものが強く関わってくると思います。自分と同じ存在であれば恋は恐らくしません。自分とは異なった異質なものだから、知ってみたい、触れてみたいという思いがあるのではないでしょうか。その恋をしてしまったことによって、カホリの人格をなくしてしまうことはできなくなったのではないでしょうか。

-終りに-
この作品はラストが多義的です。アニメにおける多義的な終わり方というのは、時としてはっきりしない、わかりにくいということから、今まであまり好まれてはきませんでした。しかし、ここでは観客の解釈ができる余地があり、見終わった後に誰かと話したくなる作品として成功していると私は思います。
京極は力の使いすぎでこの時代では原型を保つことが出来なくなるまでに疲弊します。京極を未来まで送るケンジは片道ならば二人を移動することが出来るといいますが、最後には戻ってくることが出来ます。恐らく祖父関耕児が心臓麻痺で倒れる描写があることから、未来へは祖父の力、もしかしたらケンジの妹も力を与えているかも知れませんが、によって送られたということなのではないでしょうか。だからケンジは自分の力で帰ってくることが出来たということではないでしょうか。
また、記憶の問題ですが、この作品では別の時間軸に移動するとその人物の記憶が自動的に消えてしまうということがあるようにも思われます。それは能力がない人間だけに限定されていることでしょうが、ケンジは帰ってきてナツキだけ記憶を戻しています。
どこか論理的に説明しきれない部分ではあります。SFの作品の問題となるのは、論理的にどうやって観客を納得させるかということですが、この作品ではあえてそれを不透明にしているように感じられます。最後の部分は私もまだよくわかっていないので、ぜひとも他の方の見解を知りたいです。

参考、今までの映像化
Wikipediaより
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AD%E3%82%89%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%AD%A6%E5%9C%92
テレビドラマ [編集]
1977年 『未来からの挑戦』 (NHK、少年ドラマシリーズ) 主演:佐藤宏之
1982年 『ねらわれた学園』 (フジテレビ、連続ドラマ) 主演:原田知世、伊藤かずえ、本田恭章  脚本:伊藤和典他
1987年 『ねらわれた学園』 (フジテレビ、月曜ドラマランド枠での単発ドラマ) 主演:新田恵利、藤代美奈子、京本政樹
1997年 『ねらわれた学園』 (テレビ東京、連続ドラマ) 主演:村田和美
映画 [編集]
1981年 『ねらわれた学園』 ((旧)角川春樹事務所) 主演:薬師丸ひろ子、監督:大林宣彦
1997年 『ねらわれた学園 THE MESSIAH FROM THE FUTURE』 (ギャガ) 主演:村田和美、監督:清水厚
2012年 『ねらわれた学園』 (松竹、アニメーション) 監督:中村亮介

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