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夏目漱石 「三四郎」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 その十三

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不在の下宿に届いた結婚披露宴招待状
三四郎への発送は美禰子の意思(恭助と三四郎は面識がない)
美禰子は当然三四郎の帰省を知っている
美禰子は産しおるの実家の住所を知りえた。
P336ℓ10「美禰子の結婚披露宴の招待状であった。~三四郎は帰京の当日この招待状を下宿の机の上に見た。時期は既に過ぎていた。」
正月休みに三四郎が帰省することは美禰子の知りえた情報でしょう。そうして、もし三四郎を結婚披露宴に呼びたかったとしたら、三四郎の実家に送ればよかったのです。野々宮宅には、三四郎の母から荷物や手紙が何度か届いています。ですから、当然野々宮は三四郎の福岡の実家の住所を知っているわけです。よし子が里見の家に居候している状態ですから、美禰子はただでさえ、宗八に聞いてもいいものを、よし子を通せば簡単に知ることができます。もし、呼ぶ気がないのならば、そもそも送らなかれば良い話なのです。ですから、呼ぶ気がないのにも拘わらず、披露宴の招待状を送ったという意思が疑問になるのです。
結婚披露宴は二つの恭助ネットワークが一同に会するセレモニー
ではもし、結婚披露宴に三四郎を呼ぶとどうなるのかと考えて見ましょう。三四郎を呼ぶと、恭助と出会うことになります。今まで一度も見たことがなかった恭助を三四郎が認知することによって、三四郎にはその時から美禰子が里見美禰子としての個人ではなく、里見恭助の妹という視点が付加されてしまうのです。美禰子は自分のことを恭介の妹と見られるのを嫌っていましたし、その視点を持たない三四郎に価値を見出していました。ですから、結婚披露宴に三四郎を呼ばなかったのは、自分をそのような目で見て欲しくなかったからなのです。
「恭助ネットワーク圏外の人」としての三四郎
三四郎は美禰子からいろいろなものを受け取りますが、その最初が美禰子の名刺です。そうして最後が、この招待状になります。この招待状は意図されて、式が終わってからでなければ見られないものとして存在しています。ここに、式には来てほしくないが、わざと送ったところに意図を見出して、三四郎に自分の立場を気づいてもらう糸口にしようとしたのです。

P333ℓ9「われは我が愆(とが)を知る。我が罪は常に我が前にあり」旧約聖書詩編
これは本来ダビデが女に関わる懺悔をするもので、男の懺悔がその内容です。美禰子が教会から出てきてこのセリフを言う部分には一体どのような意味が込められているのでしょうか。
男たちを「愚弄」したことへの謝罪か?
「われ」とは誰か
今まで多くの研究者は、われを美禰子と捕らえ、男たちを「愚弄」したことへの謝罪か?と考えてきました。われを女に置き換えて、意味を重視すると、このような解釈になります。しかし、「われ」を男のままにして考えると、結婚する美禰子に対して、三四郎を含む「われ」の男たちに対して、美禰子が懺悔を求めていたのではないかと読むこともできるのです。ここは、「われ」を女に代えて意味を重視するか、男のままで考えるかの違いになってきます。

作品末尾の三四郎のつぶやき 「迷羊」
P337ℓ2「ただ口の内で、迷羊(ストレイシープ)、迷羊(ストレイシープ)と繰返した」
ここで漸くストレイシープを思い出した三四郎。『三四郎』のなかでも不思議な終わり方として、どのような意味があるのか考えられてきました。三四郎に好意的に読むと、美禰子の訴えに、完全に理解したとは言えませんが、理解への一歩を踏み出したのではと考えることができます。
この作品は母の手紙が一つのキーポイントになっています。この母の手紙の内容は、東京の女性と結婚してもらっては困ると、三輪田のおみつさんとの結婚のはなしになります。P94では東京の女と結婚してもらっては困るという内容が、P236では羽織が送られてきます。この羽織は「三輪田のお光さんの御母さんが織ってくれたのを、紋付に染めて、お光さんが縫い上げたもの」で、親子で作り上げたすごい羽織です。そんなものが贈られてきては三四郎もたまりません。
P297では、「お光さんは豊津の女学校をやめて、家へ帰ってきたそうだ」とあり、当時の女学校を退学する理由としては、結婚準備が考えられました。学校から家に戻って、母親の元で花嫁修業をするのです。残すは、三四郎のYESという答えだけになったということになります。
この小説では書かれていませんが、美禰子が結婚をしているちょうど同時期に、三四郎は故郷で母から結婚の話を持ちかけられたことは間違いないでしょう。この小説から読み取れる限りでは、三四郎という名前の割りに、兄弟はいないように思われます。ですから、大学が終われば通常であれば故郷に帰ってきて、家を継ぐことになります。そうして三四郎の母親はそのようにして欲しいと思っていますから、勝手に結婚話を一人で進めてしまっているのです。後は三四郎の返事が問題となりました。しかし、三四郎が実際にどのような返事をしたのかは、ここでは書かれていません。
①YES お光さんとの結婚 ②NO ③先送り 常識的に考えればこの三つの選択肢が三四郎にはあります。なぜ語り手が、三四郎のことを書かないのかなぞです。それを解く手がかりさえかかれていないのです。ストレイシープという言葉は、三四郎が自らの結婚が眼前に迫った際の、自らの体験を重ねて、我が身のなかで美禰子の言葉をやっと知ることができたのではと考えることができるかも知れません。

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