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夏目漱石 「三四郎」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 その九

本郷区小石川区地図-485x347
三四郎の舞台となる、本郷の周辺地図。

小説のなかで、結婚というテーマはよく扱われますが、語り手が固有名さえ名前さえあたえていないない男と、ヒロインが急に結婚するという作品は少し珍しいです。ただ、これでもまだ不思議ではありませんが、さらに男を愛してもいないとなると、これは不思議です。よし子と同居していて、よし子の次に結婚の申し込みを受けた美禰子がどうして互いに愛してもいないのに結婚したのでしょうか。

P202ℓ13広田「あの女は自分の行きたい所でなくっちゃ行きっこない。勧めたって無駄だ。好きな人があるまで独身で置くがいい」原口「全く西洋流だね。尤もこれからの女はみんなそうなるんだから、それも可かろう」
ここで三四郎以外の美禰子をよく知る二人の男が、美禰子を評して意見が一致します。読者も共感できるないようであるからこそ、どうして金縁眼鏡の男との結婚になったのかが理解できないのです。
まずよし子との結婚を希望し、よし子に断られたらただちちに美禰子との結婚を申し込んでくるような男。(美禰子は現在よし子と同居)そんな男が「自分で行きたい所」なのだろうか。よし子が断った金縁眼鏡の男との縁談を「西洋流」の女である美禰子が承諾したのはなぜか。それが『三四郎』最大の謎とされてきた。

美禰子は何故野々宮と結婚しなかったのか?
三四郎は二人が恋心を抱いているのではいかと気にしている。
美禰子は野々宮に惚れていなかったのか?
美禰子は三四郎を異性としてみていなかったのか?という疑問も派生して成り立ちます。

三四郎の眼に映った野々宮と美禰子
「池の女」の場面
P35ℓ11「野々宮君は少時(しばらく)池の水を眺めていたが、右の手を隠袋(ポケット)に入れて何か探し出した。隠袋から半分封筒が食み出している。その上に書いてある字が女の手蹟らしい」
同日 野々宮はリボンを購入
P39ℓ6「蝉の羽根の様なリボンをぶら下げて」。とても地下で研究をしている人間にはふさわしいものとは思えません。ここだけで判断すると、①妹へのプレゼント、②美禰子へのプレゼント、③三四郎の知らない第三の女性?の三択が作れます。
大学病院によし子を見舞って偶然美禰子と会う 野々宮が買ったのと同じリボン
P75ℓ4「女の結んでいたリボンの色が映った。そのリボンの色も質も、慥に野々宮君が兼安で買ったものと同じであると考え出した時、三四郎は急に足が重くなった」。果たして正解は美禰子へのプレゼントでした。このとき既に美禰子への並々ならぬ感情を抱いていた三四郎は野々宮からのプレゼントだというだけで、足が重くなります。
三四郎の目の前で買ったものが美禰子に届いているわけです。あくまで書かれていないことなので、プレゼントと断定はできません。買ってきてくれと頼まれた可能性も少なからずあります。ただ、兼安は近所なので美禰子が歩いていける範囲です。それに通常こうした装飾品は自分で選ぶもの。男性には買わせないのが普通でしょう。そう考えるとやはり、三四郎は心穏やかではいられません。

広田先生の引越しの手伝いの日
美禰子「そうそう」と言いながら野々宮のあとを追いかける
P122ℓ13「野々宮さんが庭から出て行った。~美禰子は急に思い出した様に『そうそう』と云いながら、庭先に脱いであった下駄を穿いて、野々宮の後を追掛けた。~三四郎は黙って坐っていた。」ここでもやはり三四郎は野々宮のあとを追掛けていく美禰子を見て、黙っているという姿が描かれます。心穏やかではありませんね。
しかし、ここで見落としてはいけない部分があります。
同時に菊人形見物企画に「小川さんもいらっしゃい」「佐々木さんも」と誘う(デートではなくグループ)
P121ℓ8「身体(なり)ばかり大きくって馬鹿だから実に弱る。あれで団子坂の菊人形が見たいから、連れて行けなんて云うんだから」「連れて行って御上げなされば可いのに。私だって見たいわ」「じゃ一所に行きましょうか」「ええ是非。小川さんもいらっしゃい」「ええ行きましょう」「佐々木さんも」「菊人形は御免だ。菊人形を見る位なら活動写真を見に行きます。」
ここで野々宮が自分の妹のよし子を身体ばかり大きくて馬鹿だから実に弱るということを言っていますが、当時は今よりも身内に謙遜した時代ですから、妹を酷くけなす兄だなという感覚ではありません。決して馬鹿にしているわけではないのです。
「ええ是非」で終わればデートが成立しました。野々宮とよし子と美禰子。妹のよし子が邪魔といえば邪魔ですが、デートの形にはなります。それをグループにしたのは美禰子なのです。小川三四郎と佐々木を誘ったのは美禰子です。
人間関係はそれぞれの視点からみなければいけません。美禰子が野々宮を好きならば、デートにするはずです。デートのチャンスを破壊してグループにしたのは美禰子なのです。そうしてその後に先ほどの「そうそう」が続きますから、簡単に美禰子が野々宮を好きだと考えることはできません。

菊人形見物の日(日曜日)
野々宮と美禰子の奇妙な論争(「空中飛行器」 ライト兄弟から四年後)
P131ℓ11「そんな事をすれば、地面の上に落ちて死ぬばかりだ」これは男の声である。「死んでも、その方が可いと思います」これは女の答である。「尤もそんな無謀な人間は、高い所から落ちて死ぬだけの価値は充分ある」「残酷な事を仰しゃる」
何か真剣に話をしている美禰子と野々宮。この時点では一体何の話をしているのかわかりません。その続編が
P134ℓ3美「野々宮さんは、理学者だから、なおそんな事を仰しゃるんでしょう」と言い出した。話の続きらしい。
野「なに理学を遣らなくっても同じ事です。高く飛ぼうと云うには、飛べるだけの装置を考えた上でなければ出来ないに極っている。頭の方が先に要るに違いないじゃありませんか」
美「そんなに高く飛びたくない人は、それで我慢するかも知れません」
野「我慢しなければ、死ぬばかりですもの」(このセリフは野々宮のもの。「ですもの」にひかれて美禰子と勘違いをすることがあるが、当時は男性でもですものという語尾をつけることはあった)
美「そうすると安全で地上の上に立っているのが一番好い事になりますね。何だかつまらない様だ」
野々宮さんは返事を已めて~「女には詩人が多いですね」~「今のは何の御話しなんですか」「なに空中飛行器の話です」
ここでようやく空中飛行器の話をしていたのだということがわかります。空中飛行器という言葉は飛行機と飛行船を指しますが、恐らく飛行機の話であると考えられます。そうしてこの会話から二人の性格が窺えます。安全第一で飛ばないというのが野々宮。美禰子はそれでも飛ぶのだという主張です。当然読者はこの会話は何の意味もないものだとは考えません。この議論がただの飛行機だけを論じているとは考えられないのです。もっと抽象的な、メタファーだと考えます。

菊人形会場で 美禰子、菊の根を指して熱心に話している野々宮の姿を見て
P138ℓ16「広田先生と野々宮はしきりに話をし始めた。菊の培養法が違うとか何とかいう所で、~美禰子は三四郎より先にいる。~美禰子はその間に立って、振り返った。首を延ばして、野々宮のいる方を見た。野々宮は~菊の根を指しながら、何か熱心に説明している。美禰子は又向こうをむいた。~さっさと出口の方へ行く。」
内面はともかく、行動としては、美禰子は一度野々宮を見て、そうしてすてたようになります。
追掛けたのは野々宮ではなく、三四郎
P140ℓ2「もう出ましょう」
一所に見にきたのに、二人だけ別行動になります。初めての二人きりで、三四郎と美禰子はデートのようになります。しかし、このような場面にしたのは美禰子です。
P146ℓ5「広田先生や野々宮さんはさぞ後で僕等を探したでしょう」と始めて気が付いた様に云った。~「なに大丈夫よ。大きな迷子ですもの」「迷子だから探したでしょう」~「責任を逃れたがる人だから、丁度好いでしょう」(←主語がない)「誰が?広田先生がですか」美禰子は答えなかった。「野々宮さんがですか」美禰子はやっぱり答えなかった。
三四郎と美禰子は二人きりになれたものの、その経緯から三四郎は喜べません。そうして「責任を逃れたがる人だから、丁度好いでしょう」は主語がありません。先に広田先生かと聞くところが、三四郎の心情を表しているとも考えられます。しかし、結局美禰子の答えはなく、誰についていっているのかわかりません。これもまた『三四郎』の謎になります。

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