スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

夏目漱石 「三四郎」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 その三

20081005b.jpg

「三四郎」は身長のことがよく書かれている珍しい小説です。こんどは三四郎だけでなく、ヒロインにも注目してみます。
美禰子とよし子の身長
P123ℓ9「三四郎は萩とすれすれに立った。よし子は縁から腰を上げた。足は平たい石の上にある。三四郎は今更その脊の高いのに驚いた。」ここでは164‐5センチある三四郎を驚かせたのですから、正確な身長はわからなくとも相当大きいということがわかります。
P132ℓ12「『脊が高いのね』と美禰子が後から言った。『のっぽ』とよし子が一言答えた。門の側で並んだ時、『だから、なりたけ草履を穿くの』と弁解をした。」このなりたけ草履を穿くのということばですが、これは下駄よりもということばが省略されていると考えないと読めません。下駄よりは草履のほうが厚みがありませんから、草履を穿くということがわかります。この会話によって美禰子<よし子ということがわかります。
また、よし子はのっぽと一言返していますが、これは普段からそういわれていて快く思っていないということが伺えます。現代で言うところの女性の通常の身長が160-170の間という認識があるようですから、現代に置き換えればそれより高いということになるでしょう。

美禰子の履き物
広田先生の引越しの日
大きいよし子に対して美禰子はあまり大きくありません。ですから彼女が何を穿いているのかということは、予想は出来ます。実際なにを穿いているか見ていきましょう。
P122ℓ14「美禰子は急に思い出した様に『そうそう』と云いながら、庭先に脱いであった下駄を穿いて、野々宮の後を追掛けた。」読者の予想通りやはり下駄を穿いていました。
菊人形の見物時。P150ℓ2「あまり下駄を汚すまいと念を入れ過ぎた為め、」ここでもさりげなくですが、しかししっかりと記述されています。
画家原口のアトリエ
P269ℓ9「玄関には美禰子の下駄が揃えてあった。鼻緒の二本が左右で色が違う。それで能く覚えている。」と何度も下駄が出てきます。さて、初めて美禰子に会ったときはどうだったでしょうか。三四郎が東大内の池で彼女と会う場面です。ちなみにこの池の名前は三四郎池と呼ばれますが、これはもちろんこの小説が出来たためであって、小説時にはそんな名前はついていません。
P32ℓ15「鼻緒の色はとにかく草履を穿いている事も分った。」普段下駄を穿いている美禰子が何故かここでは草履です。一体何故でしょう。P181ℓ2池の場面を二人が回想している部分で「美禰子はこの夏自分の親戚が入院していた時近付になった看護婦を訪ねれば訪ねるのだが、」ということで親戚の見舞いに来ていました。東大病院は東大のキャンパス内にあります。ですから、音が立つ下駄よりも、院内では静かな草履のほうがよいと判断したと思われ、この履き物から人物の気遣いまで読み解くことが出来るのです。
下駄と草履
この小説は下駄を穿いた美禰子と、草履を穿いたよし子というコントラストがあります。

背の高い男たちの物語
広田先生の身長 「高い脊」
野々宮宗八の身長 P28ℓ7「縮の襯衣の上へ脊広を着ているが、脊広は所々に染がある。脊は頗る高い。」
ここで服装が汚くて、脊が高いということがわかります。するとよし子も大きいのですから、野々宮家は兄妹揃って大きいということになります。
美禰子の結婚相手となる金縁眼鏡の男
P286ℓ8「脊のすらりと高い細面の立派な人」
・東大運動会の二百メートル走で優勝した学生
P176ℓ3「昨夜の親睦会で演説をした学生に似ている。ああ脊が高くては一番になる筈である。」
さらに追加して言えば、P264ℓ3「広田先生が茶の袴を穿いた大きな男に組み敷かれている。」広田先生と柔術か何かの技を教えていた男もまた大きな人物として登場しています。
こうしてみてみると、この小説はやたらめったら大きな男がいっぱい出てくる奇妙な小説なのです。

三四郎の父と実家の経済力
父は生きているか、死んでいるか
P310ℓ8「君は慥か御母さんが居たね」「ええ」「御父さんは」「死にました」
ここで三四郎の父が死んでいることが明確に書かれています。さて、この「御父さん」の読み方ですが、ルビには御父(おとっ)さんと書いてあります。これはおとっさんと読むのではなく、おとっつぁんと読みます。
「か゜」をなんと読むかわかりますか。これは鼻濁音で、先頭以外にくる「が」の音をさします。鼻に抜けるおとですね。かがみのがです。
問題はここの「さ」ですが、実は元々は「さ゜」なのです。それが次第に半濁点が省略化され、表記では「さ」となってしまっていたということなのです。この「さ゜」はツァと発音します。

P45ℓ9「今年の米は今に価が出るから、売らずに置く方が得だろう」 小作人 年貢
P93ℓ2「新蔵は家の小作人で、毎年冬になると年貢米を二十俵ずつ持ってくる。」
ここから、三四郎の実家が米を売ることが出来る家であるということが分ります。また、小作人がいて、年貢を納めさせていることも書いてありますから、地主であることがわかります。
さて、父が死んでいる三四郎の家では、現在ならば相続は母がするところですが、当時は全て長兄に行きます。米の売る時期を指図できる点から考えると三四郎は名前によらず、長兄であると考えられます。
米も家もすべて三四郎のものなのです。ですから、その財産を管理しているのは母ですが、売るか売らないかの判断をしたり、財産の実権を握っているのは三四郎なのです。仕送りも、貰っていることには貰っていますが、実際これらは全て三四郎のものなのです。
P215ℓ10「三四郎は生まれたから今日に至るまで、人に金を借りた経験のない男である」
P222ℓ10「然し借りないでも好い。家へそう云って遣りさえすれば、一週間位すると来ますから」
三四郎は毎月実家からP247ℓ6「充分な学資」を仕送りしてもらっている。
P190ℓ1「実を云うと三四郎はこの間与次郎に二十円借した。~国から送って来たばかりの為替を五円引いて、余は悉く貸してしまった。」ここから三四郎が月々もらっていたのが25円であることがわかります。
ちなみに坊ちゃんの教師時の月給が40円。教師をやめて鉄道のサラリーマンになったときには25円になりました。そうすると、当時のサラリーマンの月給と変わらないくらいの金額を毎月送ってもらっていたのです。「こころ」の先生ほどではありませんが、三四郎もまた金には基本的に不自由ない学生でした。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

幽玄

Author:幽玄

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
224位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
16位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。