スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

映画「うなぎ」への試論  感想とレビュー 作品と象徴性

EFBCB6EFBCA8EFBCB3E382ABE38390E383BCE58699E79C9F.jpg

-初めに~殻に閉じこもる人間-
『うなぎ』は1997年公開の日本映画。制作・配給会社は松竹。監督・脚本今村昌平。
第50回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞。
この作品は、先ず冒頭の妻を殺害する場面から二通りの対極する解釈ができるということがわかる。突然役所広司演じる山下拓郎が、自分の妻が不倫しているのを目撃し、怒りに任せて殺害してしまう。この場面では、一つには不倫をしている男のほうを殺害するのと、妻のほうを殺害するのとで二通りの解釈ができる。
前者は、至極常識的な解釈である。通常であれば、自分の妻と不倫している男がいえば、その男のほうを殺害する。もし、自分の妻を愛しているのだとすれば、その愛している妻を殺害など出来るはずがないという、極めて正当な理由である。
後者の見方は、愛しているが故に殺してしまうという解釈である。通常この愛しているから殺すという行為は、一見矛盾をはらんでいるように見える。だが、愛ゆえに殺すということは、どうにも他の作品にも出てくることであり、またそうした歌詞もあることから、マイノリティーであったとしても、存在することは確かである。すると、この作品はその愛ゆえに殺してしまうという、ごくごく少数派の人物を描いたとして考えることも出来ると私は思う。
その理由であるが、学生の意見から、愛しているがゆえに、何の理由も言い訳も聞きたくなく、口を封じてしまうために殺してしまうという見解が出た。これは純白の保存をしたいという衝動の表れであると考えたい。自分の中にある、愛すべき妻の像をそのまま保存するために、妻を殺したというのである。妻の口から何かしらの理由を聞けば、そのために自分の中の完璧な妻像が破壊されてしまうからである。自分の中の妻像を守るためには、たとえ現実の世界の妻であっても、その破壊を許さないという衝動なのである。
すると、そこからこの男の性格、精神的な側面が見えてくると私は思う。この山下という男は、自己の内部に強固な殻をつくり、そこに安住の地を見つけようとする男ではないだろうか。その自分の殻が、手紙から始まり、妻の不倫を見てしまうということによって、危機に瀕した。それを何とか守るために、防衛本能として彼女を殺さずにはいられなかったのだと、解釈できないだろうか。
しかし、当然一度危機に瀕した彼の殻は、当然相当なダメージを負い、そのことによって作中の大半の部分は、自分の殻に閉じこもるという人間になったのである。清水美砂演じる服部桂子は、閉じこもってしまった彼の心の殻をもう一度開こうとする外界からの刺激であり、最終的には山下の殻は再び破られるということになったのである。

-作品と象徴性-
この作品は山下をめぐる物語であるが、それと同時にしばしば象徴性のある事物が登場する作品であると私は思う。
先ずは自転車の男。この作品では、後半近くまで自転車がしばしば登場する。初めは妻を殺害した後に、警察に出頭するために山下が自転車に乗っている。この場面、私はしかし疑念を持たざるを得ない。実際に人を殺したことがないためなんとも言えないが、妻を殺しておいてあれだけ冷静でいられるのだろうかという疑問が浮かぶ。しかも、『夜霧よ今夜も有難う』を鼻歌交じりに歌いながら、自転車で颯爽と出頭する。そうして今、妻を殺しましたと平然と言う。これはいくらなんでも不自然だと思うが、多分に苦しい解釈ではあるが好意的に解釈すれば、自己の殻を守ることが出来て安心したからと考えられないこともない。
出所後の山下は、しばしば自転車に乗る男として描かれている。通常移動手段や、移動している最中というのは、別に何の重要性もなく、省かれるものである。ところが、この作品では一生懸命に自転車を漕いでいる姿が、何度も描写されるのである。その姿から、自分の罪から逃れようとしている男と見て取れることが可能だと私は思う。特に、服部桂子の怪我を知って病院へと急ぐ場面では、彼の行為は自分の罪の逃れだということが露見しいてる。
というのは、この作品は刃物を巡る物語でもあるからだ。この作品の象徴物の一つには、刃物の存在がある。山下が初めに妻を殺すのも包丁である。何故外側に位置している棚らしき場所に包丁が用意されているのか、不明な点はある。また、包丁を使って妻を殺したのにも拘わらず、刃物を用いる職業をこなしているのも不自然である。ただ、作品の要所要所に刃物のもつ緊張性が描かれているのは確かである。
妻殺しも刃物で行ったことから、刃物は山下の罪とも結びついているのではないだろうか。だからその自分の罪から逃れようとして自転車での逃亡を図る。しかし、皮肉にも彼は床屋という職業を何故か選んでしまった。当然日々刃物に接しなくてはならず、そのことが、彼は己の罪から逃れられないことを暗示しているのではないかと私は思う。桂子の怪我は、ガラスによるものだという説明がなされたが、刃物による傷と拡大解釈すると、まだ自分の殻に籠もっていた山下からすれば、再び罪が襲ってくるという恐怖を感じ、自転車にのって逃亡をしようとしていたと、考えることが出来る。また、最後に堂島英次らがやってきて、乱闘が続くが、その場面で山下が再び刃物を攻撃の道具として使用してしまったことは、彼が罪をまた犯してしまったということを意味している。

山下の殻の問題と関わってくるが、この作品はお弁当をめぐる物語でもあると感じる。この作品において、お弁当は小さくない意味をもっている。お弁当で始まり、お弁当で終わる作品であるからだ。冒頭で、妻のお弁当を受け取る山下の姿が描かれている。これは殻がない状態の話。その後、桂子が何度かお弁当を渡そうとするが、それを悉く拒否する山下。最後には桂子からお弁当を受け取ることがげきたということで、山下の殻が再びなくなったということがわかる。
この作品がどうして評価されたのかということを解明しなければならないが、それは多分にこうした象徴性にあると私は感じる。様々な事物に何かしらの関連付けをして、様々なメッセージを織り込み、暗示しているのである。これが作品に多層的な深みを持たせ、評価に繋がったのだろうと感じる。ただ、私はこの象徴物にも多大な欠陥があると感じている。自転車と刃物はまだ良い。ただ、お弁当が一体なにを表すのか、またタイトルともなっている「うなぎ」が一体何の象徴物であるのか、それがはっきりしない。

-うなぎとは何か-
この作品の最大のテーマである「うなぎ」。しかし、私はその「うなぎ」のために、大きな欠陥がこの作品にはあるといわざるを得ない。そもそも原作は吉村昭の小説『闇にひらめく』というものである。原作を読んでいない状態では何とも評論しづらいが、少なくとも「うなぎ」というタイトルではない。別にうなぎにする必要はなかったのではないかというのが私の見解だ。
そもそもどうして山下がうなぎを飼っていたのかがわからない。妻の殺害より前から飼っていたという描写はないし、刑務所に服役中の男がうなぎなどを飼えるはずがない。歩き方が身に染み付いてしまうほどの生活をしていながら、どうして刑務所の係員たちがたかが一人の男のペットのうなぎの面倒を見るのだろうか。
また中盤まで山下は、うなぎがどういう生物か知らずに飼っている。観客への説明のためか、漁師の男が山下にうなぎの生態を教える場面がある。しかし、これを入れたことにより余計に山下がうなぎを何故かっていたのかが不明になる。うなぎは何万キロと旅をした南の海で出産をする。卵を一体にばらまいて、そうしてオスはそれに精子を降りかける。だからだれがだれの子かわからないというのが、この物語の重要なポイントらしいが、全くそれらの関連性は理解できない。少なくともこの山下の親が本当の親ではないというような描写があれば、ある程度の説得はあったかも知れない。しかし、そのうなぎの説明と、最後の山下のつぶやき、自分の子ではない子を授かるから(うなぎに向かって)お前と一緒だというセリフには、何の関連もない。
むしろうなぎを描かなかったほうが良かったのではないかと思われるほど、この作品とうなぎの象徴性というものは合わないものである。うなぎの説明が圧倒的に足りないのと、その説明が全くほかのものと繋がらない点。特に山下とうなぎの接点は、本人こそ同じと言っているが、そのような連関性は皆無である。これがこの作品の大いなる欠点であると私は言いたい。

-終わりに-
多義的に解釈できる作品はすばらしい作品であるが、この作品は好意的に解釈していっても、途中で頓挫してしまうという欠陥品であると私は感じる。山下がたとえ愛のために妻を殺す男だとしても、どうしてそのような性格の持ち主になったのかを描く必要があるし、他にも登場人物の内面の描写が非常に粗いと感じた。唯一桂子だけはある程度その背景が理解できるように描写されていたと思うが、他の大物俳優は、ただ顔だけの出演になっていて、それらの人物の背景が全く描かれないというのは残念なことである。桂子の母の一原悦子も、どうしてああいう精神病を患ったのかを描く必要がある。常田富士男や倍賞美津子などの俳優を出しておきながら、それらの人物像が粗いということは紛れもない事実である。特に『日本むかしばなし』の一原悦子と常田富士男を同時に出しておいて、何もしないというのは理解に苦しむ。
この作品は山下の心理を描けなかったという部分に大きな欠陥がある。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

幽玄

Author:幽玄

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
154位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
13位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。