アニメ映画「最臭兵器」への試論 感想とレビュー 大友作品に観る機械・兵器の描き方、人間の感覚としての嗅覚の存在

entry_img_183.jpg

-大アニメ映画解釈祭-
私にとって、今年の夏はアニメ映画の夏であった。アニメ映画というのは、アニメの持つ利点と、映画のもつ利点とを兼ね備えた、映像メディアとして極めて高度な媒体である。アニメーションの表現技法を駆使しながら、映画のような物語の流れ、時間の制約を受けつつも金銭的にも通常のアニメより余裕がある。そこに人々は思いのたけを注ぎ込むだろう。その注ぎ込まれたものを再び抽出するのが、我々観客に与えられた自由でもあり、義務でもあるのだ。この一見相反する自由と義務。私たちはアニメ映画を見ることによって、それを自分の中で新しい生命として生み出すことが出来る。今このとき、アニメ映画を観、そこに描かれたものを抽出し、現代において活かすべきである。これからいくつかの作品を、出来るだけ時系列順で論じていく。

-初めに-
『MEMORIES』(メモリーズ、めもりーず)は大友克洋監修のアニメ映画。「彼女の想いで」、「最臭兵器」、「大砲の街」の3話のオムニバス形式である。1995年12月23日公開。計110分。短い数編の独立した作品(主に短編)または楽曲を集め、ひとつにまとめて一作品としたものである。
今回はその作品の「最臭兵器」のみを論じてみます。

-大友作品に観る、機械類の描き方-
以前の記事で、「迷宮物語」について論じました。さて、「迷宮物語」はそれぞれ3本の短編で構成されていましたが、そのなかの「工事中止命令」が今回監修をつとめた大友克洋氏です。「工事中止命令」では監督、脚本、キャラクターデザインを担当。あの短編は大友さんの魅力がいっぱいに詰っていた作品として考えれます。
「工事中止命令」の公開が1987年でしたから、それから約8年という時を経ての短編作品。オムニバス形式。
「彼女の想いで」は大友氏の友人の漫画が原作。ほかの二作品は今回の映画製作が原作となり、他のメディアに原作はありません。いきなり映像として生み出されたのです。
ですから、論じるとすれば「最臭兵器」と「大砲の街」になります。大友さんの感性がそこには詰っているのです。今回は「大砲の街」は論じません。ただ、しいて言えば、「スチームボーイ」の原点となったという指摘もあり、後々論じるつもりではあります。
ちなみに、「スチームボーイ」は、スチームパンク愛好家たちのバイブルとなるような作品でもあります。私の知り合いにスチームパンカーが居て、本も出しているほどのすごい人なのですが、その人でさえ好きな作品の一つに挙げるほどであります。
スチームパンク。蒸気機関の時代、真鍮と木を愛している人々。アンティーク好きとはまた違い、機械系のSF要素が入っているものだと私は解釈しております。

ですから、大友さんの作品には、スチームパンカーが喜びそうな仕掛けがあるのです。つまるところ、機械の動きです。アニメーションのスタジオを見ていると、なんといってもやはりジブリがあらゆる部門において突出しているのは確かです。私はアニメーションの技術については門外漢なので、感覚として実におぼろげな意見しか申し上げられませんが、ジブリは人物に動きにしても、機械の動きにしても、かなり高度な技術を有しています。
大友さんの作品の、特筆すべきは機械の動きです。無機物、あるいは兵器を描くのが極めてすばらしいのです。ですから、大砲の街では、そのまま大砲という兵器が緻密に描写されます。スチームボーイでは、蒸気で動く真鍮製のものが写実的に描かれるのです。
「工事中止命令」でさえ、既にその片鱗は垣間見れました。隙間がないほどの機械類、鉄パイプ、コードなどで埋め尽くされた世界は、大友作品における機械の描写の出発点に近いものがあります。
その後の『AKIRA』は以前にも記事にしましたが、80年代の代表だと私は考えている作品で、まさしくこの機械類の描写が甚だしいのです。大友さんの機械の描写は、コードや、チューブ状のものが複雑にからみあって、まるで触手のように活き活きとした感情があります。機械でありながら、生物のような動きをするのです。それが一種の恐ろしさを与えると同時に、新鮮さ、おぞましさを喚起させたのです。
今回の「最臭兵器」では、そうした生きたような機械を描くのを止めて、徹底的に写実的に仕上げたといえます。

-人間の感覚への試論・嗅覚の位置づけ-
話からして大変ふざけた作品だと考えることが出来ます。話の内容は、ある研究施設で薬の開発をしていた。それをこの作品の主人公たる田中信男という気の弱い男が誤飲してしまう。ただの薬だと思ったら、それはなんと会社が極秘に開発していた、最臭兵器だったのです。
このタイトルからして、ふざけています。最終兵器ということばは、我々が普段アニメ会や漫画の世界で目にする、耳にする言葉ですね。最も終わりにだすべき、一番の武器ということでしょう。それをもじって最も臭い兵器、それが最臭兵器なのです。ただ、この言葉遊びは当然通じるのが日本語だけですから、海外へ輸出したさいに、その面白みが失われてしまうのが惜しいところ。
映画の冒頭もふざけています。大変写実的に描かれているのですが、私はそこに一種のアイロニーを感じました。冒頭は山梨のCMから。実際にありそうな陽気なメロディーが皮肉めいているように感じられます。
そこからカメラが移動して、この主人公の男を追い始めます。風邪にやられてしまったために、製薬会社でまだ開発中のサンプルをどんどん飲んでしまいます。そのなかにカプセル状の兵器があったということ。

臭い、これは人間の感覚のなかでどのように位置づけられるでしょうか。人間は感覚の殆どを視覚に頼っています。現に、嗅覚がなくなってしまった人も、聴覚がなくなってしまった人も、不憫とはいえある程度の日常生活が出来ます。申請と訓練をすれば、車の運転も可能です。ただし、視覚に障害がある人は、運転できません。このように、五感といっても利用の頻度があることがわかります。
我々が嗅覚をしようするのは何時でしょうか。食事をする際、或いは何か匂いを嗅いで安全を確かめる時。ペンキなどは、塗り立てかどうかを視覚では判断しにくいために、嗅覚に訴えるような匂いをわざと混入させています。
ただ、食事を楽しむ際、香りを楽しむ際、或いは危険を認識する際くらいに使用するのであって、通常の生活の大半は使用していない、言葉を変えれば意識していないというのが現実でしょう。ただ、嗅覚をしようする際は、常に視覚では確認できないものを捉えています。視覚に惑わされないように嗅覚があるのかも知れません。
問題はその嗅覚にだけ極めて凶暴に訴えかける兵器があったとしたらということ。
視覚的に強力な攻撃は、やはり暗闇のなかで発せられた「バルス」の光線でしょう。ムスカ大佐は目をやられてしまいました。モンハンでいうところの閃光玉です。聴覚は音爆弾。巨大な音を鳴らすことによって、視覚よりも長時間聴覚を奪うことができます。
さて、嗅覚は。強烈な匂いで相手を圧倒するということでしょう。確かに視覚、聴覚は、損害を受けたとしても命に別状はありません。悪くすると眼や耳を駄目にしたりするかも知れませんが、急速な死因にはならなでしょう。そこで、嗅覚。嗅覚を極端に刺激する匂いというのは、つまり人間から呼吸を奪うということです。口でいきをしたとしても、当然鼻に少しは空気が通りますから、匂いを感じずには居られません。ハンカチで鼻を押さえたところで、匂いは防ぎきれるものではないのです。
呼吸が出来なくなれば、当然人間は死にます。それがこの兵器の狙いなのです。あまりに強烈な匂いの発生源を作ることによって、無敵な兵器を作り上げたのです。
しかもこの兵器、感情が高まると汗が出るようにして、匂いがより放出されます。さらにこの匂いのガスには電子機器をも狂わす磁場的なものがあり、それが現代兵器の電子制御を全て狂わせてしまうというもの。

この作品では日本が国家を挙げてこの男一人を殺しにかかります。しかし、ありとあらゆる武器は、既に電子制御されているものですから、その電子部分をやられてしまって当たらない。ミサイルも途中で軌道が変わってしまう。戦車もコントロールが利かず爆発。では電子的な装備をしようしていない単純なライフルではどうか。しかし、この強烈な匂いの幕は、生きた人間が近づくことのできないものですから、彼はあらゆる点において無敵として、仮想の日本を蹂躙します。
国家が全力を挙げて一人の男を殺しにかかる。しかしそれら悉く勝手に自滅していってしまうのです。あれくるう砲弾のあらしが、まるで彼だけをよけるようにして飛んでくる。物凄く真面目に、馬鹿げたことを描いているのです。

-終わりに-
真剣に馬鹿をする。どこか矛盾しているのかも知れません。ただ、くだらないこともとことん徹底してやると、面白いことになるという、まさしくオムニバスでできた、アニメーション表現への挑戦だと私は考えています。一言で言えば、くだらないで言い捨てることも出来るのです。内容もない、映像技術だけ。しかし、描いているものが馬鹿げているからこそ、逆にその力の入れようが際立ち、一種アイロニーのような表現となって、完成しています。
結局主人公は救われないのでしょうか。この男性のせいで確かに多くの人間が死にました。しかし、それは彼がいけないのでしょうか。薬を誤って飲んでしまったから?ですがこの男性、結局最後まで何がいけないのか、何がおこっているのかわかっていないのです。勝手に周りが騒いでいるだけで、彼にとっては何のことかわからない。意識のない罪は裁くことができるのかという皮肉もあると私は感じます。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

幽玄

Author:幽玄

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
233位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
16位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア