スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

映画「やさしい嘘とおくりもの」への試論 感想とレビュー 描かれるミクロの世界・濃密な世界

img.jpg

-はじめに-
今回は『やさしい嘘と贈り物』(原題:Lovely, Still)について論じます。
毎回思うことは、洋画の原題と日本語タイトルとの乖離が甚だしいことです。もちろんイラストレイターがいるように、言葉にもコピーライターがいて考えているのですが、私はどちらかというとなるべく原作に忠実にという保守的な人間であります。まあ実際このLovely, Stillをどうやって日本語にもどすんだよという問題になってきますが、しかし、もう少しタイトルを工夫することは出来なかったのかと思います。とかくタイトルというのは、その作品に与える影響が大きいです。
作品を見る前にはこのタイトルを見て、見ようかどうかを決めるわけです。しかも見ている最中も、嘘と贈り物って一体何を指すんだろうかと、観客は頭の中で想定しています。だから、タイトルというのは既に作品の一部であるということがわかります。そこに影響される部分が大きいため、タイトルに日本語化というのは、細心の注意を払って行われるべきなのです。

-描かれているもの-
度々外なる宇宙と内なる宇宙という二項対比で分析をしてきましたが、この作品もそのように分けることができます。この作品はもちろんミクロの宇宙へと向かう作品です。非常に小さなコミュニティーを描いています。「スケールの大きな」という文句を売りにしている作品の多くは大抵大きすぎるあまりに、内容がすかすかになってしまっている作品が多いです。
しかし、この作品では、そのような壮大なものを描くつもりも全くなく、濃密した時間と空間が流れています。その点において、この作品は大変成功していると感じます。
『君によむものがたり』同様、老人が主人公となる珍しい物語です。ただ、『君によむものがたり』と全くことなる点は、恋をするのが、若いころではなく、現在だということです。つまり老人が老人と恋をするのです。
老人同士の恋を描いた作品は他にも多く存在しますが、作品全体が老人同士の恋愛で貫徹されている作品というのはとても珍しいのではないでしょうか。聞いてびっくり製作当時24歳だったニック・ファクラーの初監督作品ということですから。この弱冠の青年がどれだけ今後活躍するか、大変興味がわきます。
さて、この作品のもう一つの特徴は、小さなコミュニティーと共に、描かれている期間が非常に短いということです。クリスマスを前後して、数週間の話です。ここにも、作品を濃密にして、さらにそれを漉しているような感覚があります。
事件はこの小さな世界、時間軸の中で起こるのです。
さらに、この作品は、単に恋愛の物語が描かれているだけでなく、夢についてもするどい言及が為されているではないかと思います。夢と記憶といったほうが的確かも知れません。どちらも大変あやふやなものなのです。何故夢にうなされるのか、最初私たち観客にはわかりません。物語が終わったときにやっとその理由がわかるのです。このトリックは巧妙でした。
記憶と老いという面で解釈することも可能でしょう。老化と共に失っていくものは多くあります。初め、私はその老いの醜さからの脱却、老いることの美しさを描いたものなのかと思いました。しかし、実際はそれ以上に深い、考えもしなかったようなトリックが隠されているのです。ここで、私たちの期待の地平は見事に良い意味で切り崩されるのです。ここに作品のすばらしさがあります。

-プロットの崩壊-
作品が大変優秀であることは既に述べました。実際そのテクニックもさることながら、感動できる作品であることに変わりはありません。しかし、冷静になって分析、解釈してみると、先ず、この話自体が成り立たないように思えて仕方ありません。
結論を言えば、この老人マーティン・ランドー演じるロバートは認知症かアルツハイマーか分りませんが、記憶を失っています。しかも、何故か今まで孤独で生きてきたという記憶があるのです。我々はそこから物語が始まるので、そうなんだろうとしか考えられません。でも実際は、違うのです。
ここで、どうしてロバートは記憶を失った状態で、平然と一人で生活が出来ていたのかという疑問が起こります。元々家族だったのならば、どうして一緒にいなかったのでしょう。しかも妻メアリーと娘のアレックスは引っ越してきています。
ここがどうしても説明がつかないのです。記憶がなくなったというところまでは良いでしょう。しかし、その状態でどうして一人暮らしが出来たのでしょうか。元々家族と一緒に暮らしていて、それで記憶をなくし始めたのですから、家族と共に生活している状態から、ロバート一人が家を持ち、生活するにいたるまでの過程がどうしても説明不可能となってしまいます。
ここにプロットの崩壊、とまではいかなくとも、無理が生じているように思われるのです。息子のマイクが父の面倒を他人の振りをしてみつつ、一人暮らしをさせていたという説明も出来なくはありませんが、再びかつての夫婦が老人同士の恋に至る、通常の人間では思いも着かないことです。

-終わりに-
ただ、単純にこの映画は感動できる物語です。観終わった際には、すがすがしさが心を満たしてくれます。最後は家族揃って冬の落ち葉しきつまった街路に立っています。そうしてエンドロールとともにハラハラと落ちる真紅のバラは大変美しい。全体的に詩的の叙情があります。老人の恋を描いたからといって、それを極端なまでに美化することもせず、小さな面白みを織り交ぜることによって、老人の恋愛を上手く描いています。
記憶がなくなっても、家族愛、夫婦愛の無限の力を信じた、正の力が働いた作品です。だから、爽快感、ここちよさが余韻として残るわけです。
マーティン・ランドーは名演です。

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

幽玄

Author:幽玄

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
227位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
その他
16位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。