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細田守特集 映画『おおかみこどもの雨と雪』への試論 感想とレビュー 人間と自然への飽くなき讃歌

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-はじめに-
現在公開されている『おおかみこどもの雨と雪』を見てきました。ネタバレになりますから気をつけてください。
先ず、これを見て感じたことはとにかく驚いたということです。『時をかける少女』『サマーウォーズ』とは全く異なる世界観が展開されます。この世界にはおおかみおとこが居て、おおかみと人間との間の存在もいるのだという設定のみをとればファンタジー、フィクションとなりますが、描かれているものはノンフィクションといっても良いのではないでしょうか。
数学の世界では一旦理想の現実にはありえなし世界を作ってそこで証明します(これを作品と考える)。その後で、実はその世界はこちらの世界と地続きであるということを証明できれば証明完了となり、その理想の世界も真実となるのです。この作品はまさしく、おおかみと人間という嘘を描くことによって真実を描いているのです。

-花、一人の人間として、一人の母として-
また細田監督の得意技というか執念でしょうか、現実世界が精緻に描かれています。「東京の外れの国立大学に」という台詞とその絵を見れば多くの人が一橋大学だと認知することが出来るでしょう。国立(くにたち)から一橋への大学街道を私は何度か通ったことがありますが、まさしくそのまま、一分の一の再現で描かれています。
映画の四分の一はこの国立付近、都会の世界が描かれます。

一生懸命探してもこの花という名前はわかるのですが、おおかみおとこの名前はどうしても見つかりません。意図的に隠されています。免許証ではかろうじて一文字の名前だということくらいはわかりますが、上手に潰されています。発見したのですが、有効期限が平成21年まで、国分寺市ですから、やはり中央線沿線の物語となっています。さて、こうなると『サマーウォーズ』も冒頭健二君は東京駅に向かう際に中央線を乗っていました。細田さんの家も中央線沿線なのでしょうか。ジブリも三鷹にありますし、何故か中央線はアニメ製作に関わる部分が多いですね。地盤ですかね。
話を元に戻しますと、おおかみおとこはおおかみおとこであって、名を与えられていないのです。これをどう解釈するかという問題ですが、おそらく彼はそのままの存在であるという実に抽象的で観念的な存在なのでしょう。現実でもあり、反現実でもある。一種矛盾した存在として描かれているのではないでしょうか。
ただ、その個性、キャラクターは非常に鮮烈であります。大沢たかおの演技はすばらしく、花がまだいたいけな少女という印象があるのに対して、一通り人間の道を歩んできた重み、安定感があります。大沢たかおの声があまり聞こえないのは残念ですが、しかし、この存在はこの声にしてありといったところ。声優が当てられてしまうとどうしても主役になってしまう。これはジブリと同じですが、声優より俳優のほうが少し控えめで役柄とすんなりフィットすることがあります。これもそうなのです。役柄としては『時をかける少女』の間宮千昭と似た雰囲気を持っています。

そんなおおかみおとこと恋に落ちる花ですが、この映画は全体を通して無声映画の要素がとても色濃く出ています。花とおおかみおとこの恋もそうですが、音楽と映像のみによって走馬灯のようにイメージの提示が繰り返され、我々は長い時間を一瞬に圧縮してその経過を体感することができるのです。
ここでは一人の女性としての花が描かれます。この作品は13年間にも渡る長い時間を描いた作品なのです。やがて、花は一人の女性から母として役割を演じるようになります。子どもがおおかみと人間の間のおおかみこどもですから、人に知られては大変な自体になってしまいます。ですから、都会から田舎へ、舞台となったのは黒部、へ引っ越すのです。この子どもをつれて逃げる、人にばれないようにするという構図は角田光代の「八日目の蝉」とも似ています。
さて、そのような隠遁生活を続けるのですが、もちろん全て独力ですから上手く行くはずもなく、大変苦労をいたします。その困難を乗り越えて一人の母へと成長していく様は多くの女性に勇気を与えてくれるのではないでしょうか。
この物語は花の母への成長の記録の物語でもあるのです。

-雨と雪、一人の人間として、一匹のおおかみとして-
この物語は母である花の物語としてみることが出来ると同時に子である雨と雪の成長の物語でもあります。細田監督自身言っている通り、この映画の主人公は三人なのです。さて、この雨と雪ですが、花が生まれたときに偶然庭に自然にコスモスの花が咲いていたから花という名前をつけられたのと同じ要領で、姉雪も雪の降っていた日に生まれたから、弟雨も雨の降っている日に生まれたからという非常に単純なものです。ただ、名はそのもの自体をあらわすという言の葉思想からきた影響が少なからずあるように感じます。それは雪がまさしく冬になり雪のシーンでとても魅力的に描かれているときとか、或いは雨はいつもぐじぐじしてはっきりしない性格であるとか、花がいつも花のように笑っているとかです。
この作品は一見おおかみと人間の子どもなんてとんでもファンタジー、フィクションだと感じる方もいるかも知れませんが、やはり細田監督の写実主義は貫かれます。実際におおかみと人間の子どもがいたらという前提で話を進めていくのですね。だから我々が思うように動く。子どもの頃は人間とおおかみとの境がまだあやふやですからすぐにおおかみになってしまったりする。それが見られたら大変だと、花は困ります。雪が誤って薬品を食べてしまって吐いたときには、目の前に動物病院と小児科があり、どちらに行こうか迷ってしまうという場面もサービスで付けられています。観客から笑いが起こりました。

この作品は一種の教養小説のようなビルドゥングスロマーン、自己形成が描かれています。この二人はおおかみなのか人間なのかということをずっと考えていくのです。この際の雨と雪のコントラストが実に鮮やかです。二人とも幼少期とは反対の性格へなっていく。この仮定が実によく描かれている。丁寧なんですね。
雪原のシーンは特に印象的。無声映画の特色を生かした最高の場面です。舞い上がる雪と共になるシンバルの音。心躍るような軽快さ、雪原の白さと晴れ渡った空の色。三人がなんの心配もなくただひたすらに楽しむ瞬間。この最高の場面を細田監督は映像の中に閉じ込め保存することができたのです。
また、小学校で年月が経ち、成長していく場面、これもすばらしい。長い長い廊下を効果的に用いて、右へ行ったり左へ行ったりとカメラが横にずれると共に、雨と雪はそれぞれ一学年ずつ成長していくのです。
とにかく通常の映画でも考え付かないような、映像メディアだからこそ出来るこのような手法を細田監督は実に上手く、効果的に使用することが出来るのです。その技量には感嘆します。

雨と雪は最終的には、自分の居場所を見つけることになります。しかし、そこには余韻が残っているのです。選択したところで映画は終わるのです。もちろんそこでわざと終わらせたからすばらしい作品なのです。私たちはその後の彼等がどうなったのか、想像せざるを得ない状況になります。これは恐らく多くの人間が見ることとなる作品ですから、ファンが二次創作を一生懸命やるといったことがこの後見られるのではないでしょうか。
つまり、雨と雪の思春期が描かれていないのです。細田監督は『時をかける少女』『サマーウォーズ』共に思春期の少年少女を描くことに卓越している人です。今回はあえてその部分が全くない。これは細田監督が新しい境地へ入ったとも考えられることができます。とにかく、その細田監督が今まで描いてきた雨と雪の思春期に当たる部分が空白になっているのです。ですから残り半分は白紙だよという提示がなされているのです。観客は、その白紙に何を想像し描くのでしょうか。

-終わりに-
この作品は、ある親子の一例をとって成長を観察したものです。そこにはなんのこれこれこうしろとか、こうするべきだといった教え諭すようなものはありません。あくまで事例の提示だけなのです。そうして観客に問うのです。これだけ深い作品はなかなかないように思われます。これはまれに見る佳作です。
雨と雪は偶々人間とおおかみという極端に対照的なことがらにはさまれて自己を画一していきましたが、実は我々も多かれ少なかれ、自分には選択肢があり、どうしたらよいのか迷い続けているのです。それが人生です。
この作品は、そんな究極な選択をした三人、とおおかみおとこの例を挙げて、貴方はどうするのかという問いかけなのです。しかし、私たちはこの作品を見たときに、自己を選択する際のこの上ない恐怖へ立ち向かう勇気を得るでしょう。
田舎に引っ越した先での周りの人達の親切。ちょっとおせっかいくらいな親切が実に牧歌的です。この作品は、成長を詩的に描いたものであります。そうして余白が十分に残っている。今までの作品はどちらかと言うと書き込みすぎていた感覚があります。この作品は、余白の美があるのです。
皆さんはそこに何を見るのか、自分の目で確かめてみてください。

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