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夏目漱石 「心・こヽろ・こころ」 もう一度読む名作 テクスト論からバイアスの解放 最後(その十五)

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・「欲望の三角形」理論 (ルネ・ジラール)
ルネ・ジラール(1923~)という文芸批評家の有名な理論、欲望の三角形を用いると、この小説は実にピッタリこれに合うのです。
この理論は1960年代からおこったものですが、欲望には「主体」(だれが)と「対象」(何を)の二者関係ではなく、そのほかに「メディエーター(媒介者)」という存在が必要であると考えます。
メディエーターはモデル(手本)であり、ライバルでもあるのです。
メディエーターの欲望を模倣することによって欲望が発生すします。
〈彼(彼女)が欲している物が欲しくなる〉
この構図がよく「こころ」に当てはまります。先生は一人の時には動かなかったのです。

先生におけるメディエーターとしてのK
(「もしその男が私の生活の行路を横切らなかったならば」)
ここは、もしそうであれば、先生は御嬢さんとは結婚しなかっただろうと読むことが出来るのです。

Kにとっても先生がメディエーターであった可能性
先生がいなかったらKは「道」を放棄するほど御嬢さんに恋をしただろうかという疑問です。
先生の御嬢さんに対する欲望を見て、Kもそれを欲したのではないかと考えられるのです。
最近になって、ようやくKが何故御嬢さんを好きになったのかということが注目されるようになりました。

「先生」のKに対するコンプレックス(嫉妬)
これは既に考えました。先生はKに対して、ルックル・学力・性格で負けていると自覚しています。
Kのコンプレックス(嫉妬)
「金がない」
当時、堅気で働く女性がほとんどいませんでした。OLもありません。女性が働ける場としたら、学校の先生・ナース・電話交換婦、等々です。女性が女性だけで生活していくのには非常に困難な時代でした。
Kの恋愛がもし成就したと考えた場合、Kは御嬢さんとその母の奥さんを養わなければなりません。
昔から文学部全体が就職しにくいと言われてきました。作品の中には明記されていませんが、おそらくKは哲学科の学生だと考えられます。文学部の中でも哲学科は特に、就職口のない、一生貧乏学者というイメージの強い科でした。ですから自分一人でさえ大変な状態なのに、それに御嬢さん、奥さん、そして子どもが生まれればその子をも養わなければならないのです。
先生の下宿に移ってきてから「食費」は「先生」が負担していました。
お金についてKは、全く考える必要もない先生にコンプレクスを感じていたと思われます。
P221ℓ4「道のためなら」。Kは養父母に、医学部に行くように見せかけておいて文学部に入りました。入ってからもばれないように学費を送り続けさせました。この詐欺にも似た行為が、誠実な男であるKにどうして出来たのでしょうか。それは道追求のためでした。Kは道のためならなんでも出来たのです。しかし、道を追求すると貧乏になります。それでは御嬢さんとは結婚できません。または、御嬢さんをとると、道追求が出来ないともいえます。Kはこの両立できない二つの問題でダブルバインドを感じていたのです。

歌留多事件
こんなことでは先生のライバルにはなれないのではないか、そう考えていたKに転機が訪れたのは、この歌留多事件でした。
御嬢さんのあからさまな行為を目の当たりにして、貧しくても、御嬢さんは自分と結婚を望んでいるのではないか、とKが考えた可能性は十分に考えられます。金では勝てないけれども、ハートの勝負なら勝てるかも知れないと考えたとすると、先生への告白の可能性を考えることが出来ます。

食糧依存と「独立心」
P301ℓ1「金がないから」というKの台詞。これは、やはり結婚の資格は「金」かという言葉に解釈できます。
ところで、学生専用の大型の下宿施設ではなく、素人下宿というこの小説の舞台となった一般家庭に下宿するという方法は、一般的に他の下宿方法よりも高くつきました。Kが前にいた下宿より高いのは当たり前です。そんな金Kが払えたのかというと、払えるはずもなく、ではどうしていたのかというとP231ℓ15「彼はそれ程独立心の強い男でした。だから私は彼を私の宅に置いて、二人前の食料を彼の知らない間にそっと奥さんの手に渡そうとしたのです。」から判るとおり、全額先生が払っていました。
家族でも親戚でもない人間がただで家に住まわせてもらうことを居候といいます。つまりKはこの居候の身分であったわけです。しかし、自尊心の高いKがそんな身分に甘んじるでしょうか。Kはどのようにして自尊心を保ったのかを見ていきます。
P230ℓ3「(Kは)なるべく窮屈な境遇にいなくてはならないと結論するのです。~私は仕方がないから、彼に向かって至極同感であるような様子を見せました。自分もそういう点に向かって、人生を進む積りだったと遂には明言しました。~最後に私はKと一所に住んで、一所に向上の路を辿って行きたいと発議しました。私は彼の剛情を折り曲げるために、彼の前に跪まずく事を敢てしたのです。」
ここから、先生がKに対して取った対応がわかります。先生はKの下に出て、俺のために来てくれ、居候でなく、コーチをしてくれ、という具合に頼んだのです。ですからKにとっては、先生に頼まれて住んでやっているという構図になるのです。そうすると、Kが旅行先で先生に対して、「精神的向上心のないやつは馬鹿だ」といったのにも、先生のコーチとしての役割からではないかと考えていた可能性が出てきます。
それに対して先生のKに対する「精神的向上心のないやつは馬鹿だ」という台詞は、二つの意味を持つ可能性が生まれます。一つは、君は僕の先輩だからしっかりしてくれなくては困る、というものです。これならば、Kのコーチとしての役割は守られ、居候の正当性は守られます。二つ目は、Kの恋路をふさぐ策略です。これは、先生のコーチをしてくれという頼みが嘘ということになり、Kはただの居候であるということが露呈してしまいます。奥さんからKへの告白は、ほかならぬ二つ目であったということをKに知らせたということに変わりなく、Kは自分がただの居候であることを発見してしまったのです。だから「金がないから」という台詞が出てくるとも考えられます。

義父母を欺いて学費を出させていた正当性
これが、先生と同宿したために、御嬢さんに恋をしてしまい、崩れ去りました。それと同時にKは、居候ということを発見し、独立心とプライドを失い、勉強に身が入っていないため、大学に行く自身を失い、故郷は以前から失い、恋も破れ、親友にも裏切られたということになってしまったと考えられます。
Kはありとあらゆるものを失ってしまった可能性があるのです。だから「もっと早くに死ぬべきだったのに何故今まで生きてきたのだろう」という台詞が遺書に書かれたのかも知れません。

・Kの自殺理由についての「先生」の解釈の三段階
P317ℓ14「同時に私はKの死因を繰り返し繰り返し考えたのです。その当座は頭がただの恋の一字で支配されていた所為でもありましょうが、私の観察は寧ろ簡単でしかも直線的でした。Kは正しく失恋のために死んだものとすぐ極めてしまったのです。しかし段々落ち付いた気分で、同じ現象に向かって見ると、そう容易く解決が着かないように思われてきました。現実と理想の衝突、―それでもまだ不十分でした。私は仕舞にKが私のようにたった一人で淋しくって仕方がなくなった結果、急に所決したのではなかろうかと疑がい出しました。」
第一段階―失恋
第二段階―理想と現実の衝突
第三段階―私のようにたった一人で淋しくって仕方なくなった結果
と図式かすることが出来ますが、最後の私のようにという部分だけが気がかりです。淋しさはわかるとしても、どこが先生と一緒なのでしょうか。Kは親友に裏切られました。先生はKを裏切りました。これのどこが一所なのでしょうか、違うのではないでしょうか。
先生の淋しさとKの淋しさの共通点
百人一首事件のすぐあとのKの告白は、先生の行く手をふさごうとした策略ではないかと以前読みました。そこに先生は、Kの醜さをみたのだと考えると、自分もまたKの行先をふさいだという点で共通だと考えることが出来ます。ここに先生は共通点を見出したのではないでしょうか。
若い「私」の存在
先生はたった一人で死ぬのが怖かったのです。そうすると、若い「私」という唯一信じることの出来る人間がたった一人できたため、先生は一人ぽっちではなく、自殺することができたのではないでしょうか。
たった一人で死んだK、遺書を渡す相手のいた先生。Kよりは少しは幸せだった生涯なのかも知れません。

本記事は、高田知波教授の見解による

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・「欲望の三角形」理論 (ルネ・ジラール)ルネ・ジラール(1923~)という文芸批評家の有名な理論、欲望の三角形を用いると、この小説は実にピッタリこれに合うのです。この理論

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