マンガ「宇宙兄弟」への試論 感想とレビュー 何故売れるのか考察する

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-はじめに-
「宇宙兄弟」は小山宙哉による日本の漫画作品。
講談社の漫画雑誌「モーニング」にて2008年1号から連載中。

小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから採取、帰還したのは2010年6月13日である。この出来事に日本は空前絶後のはやぶさブームが巻き起こった。連日、報道では「はやぶさ」の数々の困難や、そこから何とか復旧し無事帰還したことを伝えた。だれもが成しえなかったことを、日本の宇宙科学研究所が成功させたことを皆が誇りと感じたのはつい最近のことである。はやぶさ/HAYABUSA - 2011年公開・はやぶさ 遥かなる帰還 - 2012年公開・おかえり、はやぶさ - 2012年公開と、同じことを題材にした映画が3本も連続して製作されたことからも、その人気ぶりが伺える。
宇宙へ対する日本人の興味はそのままでは終わらなかった。池井戸潤の「下町ロケット」が第145回直木賞を受賞した。これは宇宙へ対する感心が高まっていたこともあると考えられる。そうして大衆文学へも宇宙の魅力は浸透してきた。2011年8月にはテレビドラマ化、2012年3月TBSラジオにてラジオドラマ化され放送された。
2008年から連載されていた「宇宙兄弟」であるが、この未曾有の宇宙ブームの影響を受けて、その作品が脚光を浴びることとなった。そして、その作品の物語が大変うけたのである。

-宇宙兄弟への共感-
ここでは何故うけたのかを考察する。先ず指摘しておきたいのが、現在のことではないということである。近未来を舞台にしている。これは一種SFの典型的な話型であり、近未来だからこそこんなことがあってもいいよねと皆納得できるのである。私は科学分野に広くない人間であるが、理系の人間にとっても、恐らく近未来であれば実現してもいいだろうと納得できるような技術等があるのではないだろうか。
そうして、物語展開であるが、最近人気がある型、主人公が何か専門的なことに一生懸命専念して、様々な困難があってもそれにめげずにクリアしていくというものである。これは池井戸潤の「下町ロケット」と同じ話型と言える。主人公の南波 六太という男が宇宙飛行士という極めて異例で、極めて極端な職業を目指すというもの珍しさがあった。

この宇宙飛行士というテーマであるが、これは一般論で言って少年ならば誰もが一度は夢見る職業である。そのことは作品の中でも言及されているが、まさしくヒーローというものの実例であると考えられる。映画「アルマゲドン」を見た人であれば、ヒーロー像はますます強まったことであろう。しかし、実際に多くの人間が一度はなりたいと思いながら、宇宙飛行士へなるための課程などは殆どの人間が知らないところである。ここに着眼して描かれているから、かつて夢見た宇宙飛行士になるということを、他人がその試練を受けるのを見て共感することができるのである。
共感ということについてだが、テーマ自体にも既に共感させる部分があるということを今説明した。しかし、より共感度が強いところは、やはり南波 六太という男の像である。一般論であるが、兄弟がある人間ならば必ず兄弟に対してコンプレックスがあるということは自明の理ではないだろうか。兄にしても弟にしても、自分のもっていないものをどこかしら兄弟のうちに感じているのである。一人っ子の場合は親との間にそういう感情が生まれるかも知れない。
私が言いたいところは、この兄弟に対してコンプレックスを抱いているという男の像である。そうしてしかも、兄でありながら、非常に強いコンプレックスを弟に対して持っているという部分が今までの漫画になく、新鮮でなおかつ共感できる部分なのである。

兄(姉)がエリートで、弟(妹)の私が引け目を感じているという物語はよくある。だからこそ、それとは全く正反対の立ち居地に居る物語を読んで私たちは新鮮味を感じ、更なる共感、自己投影をするのである。
ここまでは人間関係においての共感を論じた。今度はその人物像である。南波 六太という男は今まで漫画の主役になったことのないような男である。弟が宇宙飛行士として活躍するなか、自分は特にこれといった特技もなく、会社も首になるしと、ちっともうだつのあがらない人物である。しばしば、漫画には六太の心情が現れるが、これらの多くはどちらかというとコンプレックスだったり、マイナスな物が多い。このあまりにもマイナス志向な部分に読者は、どうしてそんなに落ち込むんだよ、もっと頑張れよと応援してみたくなったり、どうしてそう考えちゃうんだよ、俺ならこうするぞと対話することが出来るのである。
漫画の主人公というものは今まで我々一般人が介入できることのない強靭な肉体、精神、能力、意志等をもった人物であった。時には悩んだりするものの、その悩みでさえ自分で解決してしまうほどの強さを持っているのが常であった。この六太はそれとは対極の位置にいる人物である。普通の漫画ならば、弟の南波 日々人が主人公である。つまり、私たちはほぼ初めてといってよいほどに、主人公に共感し、対話をすることが可能となったのである。この魅力が読者を漫画にひきつけて止まないのでないだろうか。

時にはひがみさえ見せてしまう六太であるが、様々な困難に向かい合い、過去の思い出や、弟とのやり取りや、或いは周りの影響を受けてそれらを解決し、より一層高みへと移る。この一つ一つの課題解決に、我々が本当によかったと、すがすがしい感動を覚えるのは、私たちと同じ立場、同じ人間である六太に自己投影しているからに他ならない。
また、登場人物はどれも個性的な面々が多いが、その中でも六太の助けになる数々の中年親父の姿が印象的ある。
宇宙飛行士選抜試験時には、おなじカプセルで共に戦った福田 直人から始まり、JAXAの研究員たちもそれぞれ中年のメンバーが目立つ。物語がさらに進むと、吾妻 滝生の存在が大きい。日々人とのやりとりで次第に南波兄弟に心を開いてくれる吾妻は、少ない日本人宇宙飛行士の最もよき先輩である。彼の寡黙でストイック、しかし時に見せる情の温かみに南波兄弟のみならず、我々も感嘆されてしまうのである。
NASAではブライアン・ジェイ、ジェーソン・バトラー、ビンセント・ボールド等々の強烈な印象を与えた人物たちが南波兄弟を成長させる。特にビンセント・ボールドと六太との関係が最も師弟関係に近く、人生の先輩との対話を我々は目の当たりとすることとなる。

-映画が何故売れなかったか-
ここまで説明した通りの理由で我々が六太に感情移入できるということがわかった。そこで次に何故漫画でヒットしたこの作品が映画でヒットしなかったのかということについて考えてみたい。私は映画を見ていないのでわからない部分が多いのであるが、多くの人間が見に行かなかったということから、つまらないということとは別に何かが存在しているのではと考えて話を進める。
これまで六太と日々人の人間像について話した。そこで映画のキャストと比較してみる。南波 六太=小栗旬、南波 日々人=岡田将生。ここで既に印象にずれがある。我々はどうしようもない人間六太だからこそ、その弱さを共有して愛すことができたのである。ところが小栗旬はどうであろうか。殆どの女性は嬉しがるであろう。しかし、それは実に表面的な部分の感情に過ぎず、このような完璧な男性像は誰も共感できないのである。男ならば、小栗旬に共感が持てるという人間は殆どいないであろう。そうして、弟日々人であるが、岡田将生。彼の印象は私個人の見解で真にそのファンの方には申し訳ないが、自信に満ち溢れているというタイプではないだろう。日々人は意識しないでもやることなすこと全て兄にはナルシストっぽく見えてしまうほど自信に満ち満ちたタイプの人間でなければだめなのである。
だから、六太は大泉 洋のような俳優がよいのである。水曜どうでしょうのようなイメージが強ければ、どうしようもない兄というところに共感を持てた人間は多いはずである。彼がいつもの少し高めの声でひがんでくれればよかったのである。これは完全にキャストを女性の客目当てで起用したためのミスである。
我々はかっこいいヒーローが見たいのではなく、かっこ悪い凡人を見たいのである。

-今後の展開の予想-
物語は主に、課題をこなすということによって進行してきた。だが、そこでは個人の力のみによって成功していくという話はなく、必ずライバルであったり、或いは先輩たちとの交流によって進展するのである。そんななかで、目立つのが、ライバルあるいは先輩たちとの約束である。課題にクリアするとライバルは落とされ、先輩たちは彼等に希望を託す。ここで何かしらの約束が生ずるのである。すでにいくつかの約束が交わされ、果たされている。
この作品のなかでもっとも大きな約束は二つあると考える。一つはもちろん六太と日々人との間での約束である。兄弟二人で月に立つという夢実現である。ブライアン兄弟の話も度々でてくることから、この物語の終末、もっとも重要な場面は兄弟二人で月に立つということであろう。そうしてもう一つは六太とシャロンの約束である。17巻にて、シャロンの方から企画が採用されなかったという連絡があったことにはおどろいたが、すぐに別のプランを考えるという方向になった。六太は恐らくこの約束を果たすということが彼個人での一番大きな使命となるだろう。
この二つを叶えるときに、この物語は終わるであろうと私は予想する。ただし、これだけ人気になってしまうと周りの影響によって、終了させることが難しくなり、続けさせられるということも起こりかねない。
今後注目の期待の作品である。

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-はじめに-「宇宙兄弟」は小山宙哉による日本の漫画作品。講談社の漫画雑誌「モーニング」にて2008年1号から連載中。小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから採取、帰還した

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