ガブリエル・ガルシア=マルケス 「百年の孤独」 感想とレビュー 私の一冊 輪廻観を読み解く

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何日か掛かったものの、あまりの面白さのため、一気に読み進めてしまいました。今回の小説はノーベル文学賞受賞作、マルシア=ガルケスの「百年の孤独」。マルシア=ガルケスはラテンアメリカ、コロンビア生まれ。これはスペイン語で書かれたラテンアメリカ文学作品です。
まるでトーマス・マンの魔の山のように、ドストエフスキーの作品のように長大な作品です。しかし、描かれていることは、詳細な心情描写ではありません。ただ淡々と人物とその周囲の出来事を描いていくだけなのです。たったそれだけのことがなぜこんなにも長いのか、それは100年間のある街のある家族の様子を描いたからです。

ラテンアメリカ、南米はスペイン語が通じます。ということはヨーロッパから多くの民族が移民してきたということになるでしょう。そうすると文化圏で言えば西欧文化です。ですからキリスト教、ユダヤ教、イスラム教的な文化が根ざしているはずです。
ここで私がこの小説を読んで思ったことに輪廻観があります。本来この輪廻転生という概念は東洋のものです。人には魂があってそれが肉体を変えながらぐるぐるまわっている。私はこの小説に少し形は変わっていますが、輪廻の世界を感じたのです。
だれでもこの小説を読み進めていく上で混乱するのが登場人物たちの名前でしょう。古くから親の名前や先祖の名前をつけることはかなり多くありました。ですからこれを日本人が読んだら不自然に思いますが、外国ではそこまででもないでしょう。しかしあまりにも、アウレリャーノとアルカディオという名前が使用されます。ここに輪廻を感じるのです。そうしてその名前の持つ不思議な力が描かれています。名前に、言葉に力が宿るという考えは日本の考えです。万葉集一番歌には天皇が娘の名前を聞く歌がありますが、それは名前を聞くことがその人全てを支配するという意味をもっていたからです。そこまでいかなくとも、この小説にはしばしば母ウルスラがアウレリャーノには荒々しさや無鉄砲さ、健康さなどが、アルカディオにはメルキアデスの研究に没頭するような研究者てきな精神、おとなしさ、不健康さなどがあると感じる場面があります。
しかしそれに気が付いても根本的に名前を変革することはないのです。ウルスラだけが気が付いていても、その子どもたちが彼女の意見を無視してしまうのです。
次に繰り返される名前をもった人物たちが、ほとんど悲劇によってそのいのちに終止符を打つということです。それは上でいった名前の問題もそうでしょうが、何度も悲劇が繰り返される。銃殺されるということがほとんどです。しかもその最後だけに拘わらず、メルキアデスの部屋に入って研究を続けることや、女性との情事などいくら経っても変わらないのです。
ここから見えてくるのはアルカディオ家のほとんどの男が同じ運命を辿っているということです。そしてその運命が回るごとにブエンディア家因果は強まっていきます。

この小説は初めにウルスラとホセ・アルカディオ・ブエンディーアの話から始まりますが、すでにここから実は週末がちらりと見え隠れするのです。血の近いもの同士が結婚すると豚の尾が生えた子が生まれるよと母親に脅かされます。結局はこの予言が見事に的中するわけですね。
さて、すでにブエンディア家では豚の尾が生えたものが生まれていたというところから物語りは始まっています。ですからこれ以上血を強めたら危険な状態にあったのです。ウルスラとホセ・アルカディオ・ブエンディーアの間にはなんとか人の子が無事生まれました。しかし強まった血はその子孫に数々に人間離れした能力や運命を課しました。
家系図を見ていくと、これ以上強めてはいけない血が最終的に強まったのは、最後のアマランタ・ウルスラとアウレリャーノ・ブエンディーアの子です。アウレリャーノは豚の尾を生やして生まれてきました。ここでその業の深いものが終末を迎え、マコンドはブエンディア家とともにその姿を消すのです。

さて、この小説には数々の狂ったものが登場します。いわゆる非日常というものです。ただ、ガルシア・マルケスはその非日常、通常考えられないようなことをまるでなんでもない常識のようにさらりと描くのです。これに違和感を覚える人はいるでしょう。
実際彼のこの非日常を日常に描きこむ作風はマジックリアリズムといって、この作品以降他の作品に多大な影響を与えました。
メルキアデスやジプシーを筆頭に、その不思議な世界は始まります。しかしそんな非科学的なものはないと思うものでも実際に存在するものもあるのです。例えばレベーカは土を食べます。こんなのはないと思うひとがいるかも知れませんが、こういう行為をする人は実在します。あるいは感染型の不眠病。家族全員が不眠になる。感染型かどうかは別として、やはりこうした病気があるそうです。
ですからここに非現実だろうと思っていたものが現実だったという発見があり、読者は一体なにをどこまで信じていいかわからなくなってしまうのです。非現実と現実のあまりにあやふやな境界に不安を抱きながらも、その世界に身をゆだねるしかないのです。

この現実と空想が入り混じる世界の中でただ一人としてその幻想からはなれることのできた人はいません。マコンド自体が陽炎の町だという論もありますが、私はそうではないと思います。
ただ、唯一気違いの中で正常にいられるのはウルスラただ一人でした。彼女は作中でピラル・テルネーラとほぼ同じくらいの長生きです。このウルスラとピラルの二つの軸はこの作品を読み解いていく上で重要なものであります。それはただ単に長生きしたからというだけでなく、ウルスラはブエンディア家の中からなんとかその気違いを矯正しようと奮闘し、ピラルはブエンディア家の子どもを生んでおきながら、傍観者として、時には助力者として見守り続けるのです。
ただ、やはりブエンディア家の中の女性もみな気違いなのです。アマランタとレベーカもその因縁の激しいこと。アマランタは最後は死神とも対話できる状態にまでなっていました。レベーカも一生を家の中でくらしました。レメディオス・モスコテはすぐ死に、小町娘レメディオスはまるでかぐや姫のよう。その美ぼうのあまり男性を何人も殺し、最後は天空へと舞い上がって生きます。フェルナンダ・デル・カルピオは後半でもっとも狂っていた人物です。唯一このブエンディア家から離れることによってなんとか気を正常に保ったのが、サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダでしょう。レナータ・レメディオス(メメ)も離れたといえば離れましたが。
要するにこの家族は初代の二人が結婚したときから呪われているのです。

おもしろいなと感じたのはメルキアデスの存在です。初めのほうはジプシーとして出てきましたが、次第にその知識のあまりに人間離れした部分があらわになってきます。彼を神の知恵の象徴だとするとその知識をなんとか知りたいブエンディア家の男は人間。つまり知ってはいけないことを知ろうとした人間は最後にその神の知恵に触れたとき、全てを悟って破滅するのです。ここはキリスト教的な思想を感じます。
またメルキアデスは死の淵に隠れていたりしたこともあり、死んだ後もずっとブエンディア家に現れてはさまざまなことを教えようとします。結局彼が教えたかったことは、彼が生前残した手記の解読法でした。しかしこの手記はブエンディア家の滅亡を示していたのですからメルキアデスも考えようによっては冷たいおとこです。死を予言しておきながら、それを明確にしめさない。中途半端な隠し方をするからブエンディア家の人間は何世代も何世代もその暗号解読に力を注ぎます。そして内容がわかった瞬間滅亡。
この意味は一体何なのでしょうか。浦島太郎の箱でしょうか。死と滅亡の謎を与えておいて、それを解かせる手伝いをしている。
業が深い一族への罰なのでしょうか。それともメルキアデスは死の淵に行ったと言っています。この現実から彼らを助けてあげようとしていたのでしょうか。

このように読み解いていくと、何故この小説が全世界で大ブームとなったのかがわかります。様々な宗教観に裏づけされているからです。だから自分がなっとく出来る価値観がどこかに必ずある。この共感を喚起させる構造と、現実と空想の境界線のあいまいさ。これが読者を読みたいと思わせることに成功しているのです。

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まとめtyaiました【ガブリエル・ガルシア=マルケス 「百年の孤独」 感想とレビュー 私の一冊 輪廻観を読み解く】

何日か掛かったものの、あまりの面白さのため、一気に読み進めてしまいました。今回の小説はノーベル文学賞受賞作、マルシア=ガルケスの「百年の孤独」。マルシア=ガルケスはラテ...

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No title

幽玄さんはじめまして。
おおーっ!!
ちょうど今、僕、読んでる最中です。
百年の孤独。

でも、実はまだ冒頭部分でして
内容が頭に中々入ってこないんです…。

後の楽しみがあるってことで
じっくりと読んでみようと思います。
読破に半年くらいかかりそうですが…

Re: No title

そうですか、頑張ってください。
私は半ば本を読むのが生活のようなものなので一週間ほどで読みきりましたが、なかなか辛いものがあります。
是非ゆっくりでいいので家系図を作りながら読んでみてください。そうすると後々色々なことが繋がってきます。これも細かいミステリがいくつも織り込まれているのです。
最初はわかり辛いですが次第にわかります。
辛抱してみてください。すばらしい発見があると思います。
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