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「道徳の時間」 道徳について考察する~3~ 資料 廣瀬武夫の詩・夏目漱石「艦長の遺書と中佐の詩」

これが最後の資料になります。長くなりますので、次回に私の見解を持って行きます。
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「廣瀬武夫」の詩(明治37年3月19日付兄宛手紙 『廣瀬武夫全集』 下巻 昭和58年 講談社)
七生報国 七たび生まれて国に報ぜん
一死心堅 一死 心堅し
再期成功 巣多旅成功を期す
含笑上船 笑いを含みて舟に上がる

青空文庫から 夏目漱石「艦長の遺書と中佐の詩」
昨日(きのう)は佐久間(さくま)艇長(ていちょう)の遺書(いしょ)を評して(ひょうして)名文(めいぶん)と云(い)つた。艇長(ていちょう)の遺書(いしょ)と前後(ぜんご)して新聞(しんぶん)紙上(しじょう)にあらはれた広瀬(ひろせ)中佐(ちゅうさ)の詩(し)が、此(この)遺書(いしょ)に比して(ひして)甚(はなは)だ月並(つきなみ)なのは前者(ぜんしゃ)の記憶(きおく)のまだ鮮か(あらたか)なる吾人(ごじん)の脳裏(のうり)に一種(いっしゅ)痛ましい(いたましい)対照(たいしょう)を印(いん)した。
 露骨(ろこつ)に云(うん)へば中佐の詩は拙悪(せつあく)と云(うん)はんより寧(むし)ろ陳套(ちんたう)を極(きは)めたものである。吾々(われ/\)が十六七(じゅうろくしち)のとき文天祥(ぶんてんしやう)の正気(せいき)の歌(うた)などにかぶれて、ひそかに慷慨(かうがい)家(いえ)列伝(れつでん)に編入(へんにゅう)してもらひたい希望(きぼう)で作(さく)つたものと同程度(どうていど)の出来栄(できばえ)である。文字(もじ)の素養(そよう)がなくとも誠実(せいじつ)な感情を有(いう)してゐる以上(いじょう)は(又(また)如何(いか)に高等(こうとう)な翫賞(くわんしやう)家(いえ)でも此(この)誠実(せいじつ)な感情(かんじょう)を離れて(はなれて)翫(がん)賞(しょう)の出来ない(できない)のは無論(むろん)であるが)誰でも中佐があんな詩を作らずに黙つて閉塞船で死んで呉(く)れたならと思(おも)ふだらう。
 まづいと云(うん)ふ点(てん)から見れば(みれば)双方(そうほう)ともに下手(まづ)いに違(ちがい)ない。けれども佐久間(さくま)大尉(たいい)のは已(やむ)を得ずして拙(まづ)く出来た(できた)のである。呼吸(こきゅう)が苦しく(くるしく)なる。部屋(へや)が暗く(くらく)なる。鼓膜(こまく)が破れ(やぶれ)さうになる。一行書(いちぎょうか)くすら容易(ようい)ではない。あれ丈(だけ)文字(もじ)を連(れん)らねるのは超凡(てうぼん)の努力(どりょく)を要する(ようする)訳(わけ)である。従(じゅう)つて書かなくて(かかなくて)は済まない(すまない)、遺(のこ)さなくては悪い(わるい)と思(おも)ふ事以外には一画と雖(いへど)も漫(みだ)りに手(て)を動かす(うごかす)余地(よち)がない。平安(へいあん)な時(とき)あらゆる人(ひと)に絶えず(たえず)附け(つけ)纏(まと)はる自己(じこ)広告(こうこく)の衒気(げんき)は殆(ほとん)ど意識(いしき)に上(のぼ)る権威(けんい)を失(しつ)つてゐる。従(じゅう)つて艇長(ていちょう)の声(こえ)は尤(もつと)も苦しき(くるしき)声(こえ)である。又(また)尤(もつと)も拙(せつ)な声(こえ)である。いくら苦しくても拙でも云はねば済まぬ声(こえ)だから、尤も(もっとも)娑婆気(しやばけ)を離れた(はなれた)邪気(じゃき)のない事(こと)である。殆んど(ほとんど)自然(しぜん)と一致(いっち)した私(わたくし)の少い(しょうい)声(ごえ)である。そこに吾人(ごじん)は艇長(ていちょう)の動機(どうき)に、人間としての極度の誠実心を吹き込んで、其(その)一言(いちごん)一句(いっく)を真(まこと)の影(かげ)の如く(ごとく)読みながら(よみながら)、今(いま)の世(よ)にわが欺(あざむ)かれざるを難有(ありがた)く思(おも)ふのである。さうして其(その)文(ぶん)の拙(せつ)なれば拙(せつ)なる丈(たけ)真(まこと)の反射(はんしゃ)として意(い)を安ん(やすん)ずるのである。
 其上(そのうへ)艇長(ていちょう)の書いた(かいた)事(こと)には嘘(うそ)を吐(つ)く必要(ひつよう)のない事実が多い。艇が何度の角度で沈んだ、ガソリンが室内に充ちた、チエインが切れた、電燈が消えた。此等(これら)の現象(げんしょう)に自己(じこ)広告(こうこく)は平時(へいじ)と雖(いへ)ども無益(むえき)である。従(じゅう)つて彼(かれ)は艇長(ていちょう)としての報告(ほうこく)を作らん(つくらん)がために、凡(すべ)ての苦悶(くもん)を忍んだ(しのんだ)ので、他(ひと)によく思(おも)はれるがために、徒(いたづ)らな言句(げんく)を連ねた(つらねた)のでないと云(うん)ふ結論(けつろん)に帰着(きちゃく)する。又其(その)報告(ほうこく)が実際(じっさい)当局者(とうきょくしゃ)の参考(さんこう)になつた効果(こうか)から見て(みて)も、彼(かれ)は自分(じぶん)のために書き残した(かきのこした)のでなくて他(ひと)の為に(ために)苦痛(くつう)に堪(かん)へたと云ふ証拠さへ立つ。
 広瀬中佐の詩に至つては毫(がう)も以上(いじょう)の条件(じょうけん)を具(そな)へてゐない。已(やむ)を得ずして(えずして)拙(せつ)な詩(し)を作(さく)つたと云(うん)ふ痕跡(こんせき)はなくつて、已(やむ)を得る(える)にも拘(かゝ)はらず俗(ぞく)な句(く)を並べた(ならべた)といふ疑(うたが)ひがある。艇長(ていちょう)は自分(じぶん)が書かねば(かかねば)ならぬ事(こと)を書き残した(かきのこした)。又(また)自分でなければ書けない事を書き残した。中佐の詩に至つては作らないでも済むのに作つたものである。作らないでも済む時に詩を作る唯一の弁護は、詩を職業とするからか、又は他人に真似(まね)の出来ない(できない)詩(し)を作り得る(つくりうる)からかの場合(ばあい)に限る(かぎる)。(其外(そのほか)徒然(とぜん)であつたり、気(き)が向いたり(むいたり)して作る(つくる)場合(ばあい)は無論(むろん)あるだらうが)中佐は詩を残す必要のない軍人である。しかも其(その)詩(し)は誰(だれ)にでも作れる(つくれる)個性(こせい)のないものである。のみならず彼(あ)の様(よう)な詩(し)を作る(つくる)ものに限(きり)つて決して(けっして)壮烈(そうれつ)の挙動を敢(あへ)てし得ない(しえない)、即ち(すなわち)単(たん)なる自己(じこ)広告(こうこく)のために作る(つくる)人(ひと)が多さ(おおさ)うに思(おも)はれるのである。其(その)内容(ないよう)が如何(いか)にも偉さ(えらさ)うだからである。又偉がつてゐるからである。幸ひにして中佐はあの詩に歌つたと事実の上に於て矛盾しない最期(さいご)を遂げた(とげた)。さうして銅像(どうぞう)迄(まで)建てられた(たてられた)。吾々(われわれ)は中佐(ちゅうさ)の死(し)を勇ましく(いさましく)思(おも)ふ。けれども同時(どうじ)にあの詩(し)を俗悪(ぞくあく)で陳腐(ちんぷ)で生きた個人の面影(おもかげ)がないと思(おも)ふ。あんな詩(し)によつて中佐(ちゅうさ)を代表(だいひょう)するのが気の毒(きのどく)だと思(おも)ふ。
 道義的(どうぎてき)情操(じょうそう)に関する(かんする)言辞(げんじ)(詩歌(しいか)感想を含む)は其(その)言辞(げんじ)を実現(じつげん)し得(しとく)たるとき始めて(ときはじめて)他(た)をして其(その)誠実(せいじつ)を肯(うけが)はしむるのが常(つね)である。余(よ)に至(いたる)つては、更(さら)に懐疑(かいぎ)の方向に一歩を進めて、其(その)言辞(げんじ)を実現(じつげん)し得(しとく)たる時(とき)にすら、猶且(なほかつ)其(その)誠実(せいじつ)を残り(のこり)なく認(しのぶ)むる能(あた)はざるを悲しむ(かなしむ)ものである。微(かす)かなる陥欠(かんけつ)は言辞詩歌の奥に潜(ひそ)むか、又(また)はそれを実現(じつげん)する行為(こうい)の根(ね)に絡(から)んでゐるか何方(どつち)かであらう。余(よ)は中佐(ちゅうさ)の敢(あへ)てせる旅(たび)順(じゅん)閉塞(へいそく)の行為に一点虚偽の疑ひを挟(さしはさ)むを好まぬものである。だから好んで罪を中佐の詩に嫁(か)するのである。

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