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太宰治「駈込み訴へ」への試論 テクスト論から もう一度解釈してみる レジュメ~1~

dazai1.jpg

太宰治の「駈込み訴へ」への試論です。このタイトルは駆込みでも訴えでもないので打ち間違えには注意が必要です。日本語の難しい部分です。

Ⅰ、作品の発表年月と雑誌名
昭和15年(1940)2月 「中央公論」政変号「創作・新人特選」欄

Ⅱ、作品が発表された時代
脱稿は昭和14年(1939)12月頃末
・1939,9,3 イギリス・フランス、ドイツに宣戦(第二次世界大戦始まる)
・ノモンハン事件
・国民徴用例公布。米国、日米通商航海条約廃棄通告

Ⅲ、ディスカッション・テーマ
 小鳥の正体は何か

Ⅳ、見解
 「あの人」(神・天使)の祝福である

Ⅴ、論拠

1、 自明の理として
 ・「ユダ」という人物に対する認識 「裏切り者ユダ」
・三位一体論 父なる神・イエスキリスト・聖霊は同質のものと考える

2、 小鳥の出現箇所の整理
 一回目P160、ℓ15
「私がここへ駈け込む途中の森でも、小鳥がピイチク啼いて居りました。」
 ユダの語りが始まる以前。

 二回目P160、ℓ14
 「ああ、小鳥が啼いて、うるさい」
 ユダの語りの最後。

 ではどうして訴へが始まってから終わるまでの間、小鳥は出てこないのか?

3、ユダの精緻な自己分析・外界の遮断
 P140、ℓ2「生かして置けねえ」と訴えるユダ
しかし当人にも何故「生かして置けねえ」やつなのか明確な答えが出ていなかった。
イエスを売るための決心が未だ曖昧である。
その答えを模索するために「あの人」との様々な出来事を回想しながら緻密に分析していく。
これは「旦那さま」へ訴えるとともに自分自身への動機の理解と説得である。

ユダの心情の変化
①、「あの人」を殺して欲しい
②、辱められたことへの憎悪
③、わかってもらいたい、愛してもらいたい
④、わかってもらえない、愛してもらえないことへの怒り、殺して欲しい
⑤、「あの人」の「感情」、「特殊な愛」が「マリヤ」に向けられたこと・「あの人」の「美し」さが「醜態」へまで落ちぶれたこと・マリヤを取られたことへの口惜しさ・無念。
⑥、殺意の芽生え。
⑦、「あの人」の「美し」さが失われていく前、私が殺してあげなければ。
⑧、「あの人」への諦め。自身への嘲笑
⑨、「あの人」を自分で殺すよりも「役人に引き渡す」ことへ
⑩、「あの人」が可哀想に思えた。
「あの人」のことを「わかった」ユダ。しかし「あの人」はユダのことをまたしても「わか」ろうとしなかった。森厚子論。参考文献参照。
⑪、「きらわれ」たことへの「復讐」。憎しみ。
⑫、「あの人」を売って、「楽しい」「いい気持ち」
⑬、商人ということへの気づき。全部嘘。
4、小鳥が再び聞こえ始めた理由
2のどうして訴へが始まってから終わるまでの間、小鳥は出てこないのか?という疑問に対しての答え。

 「あの人」を無事に売る渡すことができたから
3を見ても分かるとおり、ユダは対立する様々な感情から「あの人」をなかなか売り渡せないでいた。元々確固たる意志があるのならば「私はユダというものです。『あの人』はゲッセマネにいます」この二点を言えばよいのである。

キーワード「ゲッセマネの園」
このワードがない限り「あの人」を売り渡すことは出来ない。
逆を言えばこのワードを言ったことによって初めて売り渡すことに成功したといえる。
直後、「ああ、小鳥が啼いて、うるさい。」

5、ユダの行為は「裏切り」ではなく「売る」「復讐」
裏切りとは
 うらぎること。内応。内通。ひそかに敵に通ずること。

「あの人」は全てお見通しである。
P143、ℓ3「おまえにも、お世話になるね。」
これは「危うい手品の助手」や普段のお世話への感謝、ねぎらいの言葉であると同時に、もっとも重要な「神の子」が人によって殺されるという計画へ加担してもらうことへの侘び。しかしユダにはそのことは打ち明けられないため、それ以上の言及は避け、計画を成功させるためにもわざとわからない振りをして辛くあたる。
P147、ℓ6「そのわけは言うまい。この女のひとだけは知っている」
ユダの「あの人」への純粋な愛、命を捨てられるほどの愛に気づいていながらそれを拒否し、他の女との秘密の共有があるように見せる。ユダのダメージ「あの人の言葉を信じません。」
P150、ℓ5「そのとき以来、あの人を、いっそ私の手で殺してあげようと思いました。いずれは殺されるお方にちがいない。またあの人だって、無理に自分を殺させるように仕向けているみたいな様子が、ちらちら見える。私の手で殺してあげる。他人の手で殺させたくはない。あの人を殺して私も死ぬ。」

ダメージは大きかったものの、殺意に変わってしまった。ユダに殺されては全人類を救うことが出来ない。

ユダに売り渡させるため、「あの人」は「気がふれて」「醜態」をさらし続けた。
その結果P153、ℓ5「自分の力では、この上もの何も出来ぬということを此の頃そろそろ知り始めた様子ゆえ、あまりボロの出ぬうちに、わざと祭司長に捕らえられ、この世からおさらばしたくなって来たのでありましょう。」P153、ℓ12「殺されたがって、うずうずしていやがる。」と思わせることに成功。

最後の決心をつけさせるための一押しとして、P158、ℓ3「みんな潔ければよいのだが」P159、ℓ14『「私がいま、その人に一つまみのパンを与えます。その人は、ずいぶん不仕合せな男なのです。ほんとうに、その人は、生まれて来なかったほうが、よかった」と意外にはっきりした語調で言って、一つまみのパンをとり腕をのばし、あやまたず私の口にひたと押し当てました。』
一度ユダの同情を誘った上で突き放すという行為。これへの「復讐」である。

では何故「あの人」は全てを見通していたとわかるか。
P160、ℓ5「為すべきことを速やかに為せ」
もし、全くユダの内心に気づいていなければこの台詞は出てこない。

「あの人」を「売る」代わりにユダはP155、ℓ4「私は永遠の、人の憎しみを買うだろう。けれども、この純粋の愛の貪慾の前には、どんな刑罰も、どんな地獄の業火も問題ではない。」ほど「あの人」を愛している。裏切りではない。
「復讐」あだをかえすこと。あだうち。しかえし。
あだ。自分の害となるもの。うらみ。
今までのいじめや辱め、P160、ℓ1「意地悪さ」への憎みのこと。

6、1では一回目の小鳥は何か
 「あの人」(神・天使)の鼓舞
ユダは3で見たようにかなり感情が交錯していた。また、「あの人」を「売る」ことをせずに自分ひとりで生きていくこともできたし、どこかへ逃げることも出来た。なぜなら師弟のP142、ℓ2「宿舎の世話から日常衣食の購求まで、煩をいとわず」できる商才があり、まめな男であるから。それに、P144、ℓ9ユダ「の村には、まだ私の小さい家が残って在ります。年老いた父も母も居ります。ずいぶん広い桃畠もあり」「あの人」と母マリヤを足した5人でも「一生安楽にお暮らし」できるほどの財産もある。

しかし、「あの人」を殺して自分も死ぬという偏った愛のために奔走する。
逃げ出してもよいユダを天から励ます小鳥の啼き声。
このときユダは「あの人」の思惑に気づいていない。
6、2では二回目の小鳥は何か
 「あの人」(神・天使)の祝福
ずっとイエスを売る理由を模索し続けたユダは最後にやっと「売る」行為に成功する。それがキーワード「ゲッセマネ」という「あの人」の居場所を知らすものであった。そのため、このワードが出た直後に小鳥が啼き始める。「為すことを速やかに為」したユダを褒め讃えるための賞賛の啼き声。
神の国の近づきを知らせる聖霊の声。
P161、ℓ3「ああ楽しい。いい気分。今夜は私にとっても最後の夜だ。旦那さま。旦那さま。今夜これから私とあの人と立派に肩を接して立ち並ぶ光景を、よく見て置いて下さいまし。私は今夜あの人と、ちゃんと肩を並べて立ってみせます。あの人を怖れることは無いんだ。卑下することは無いんだ。私はあの人と同じ年だ。同じすぐれた若いものだ。」
「あの人」との最後を共にできることへの喜び。
精緻な自己分析を経て、小鳥の存在に疑問を抱く。
P161、ℓ7「ああ、小鳥の声がうるさい。耳についてうるさい。どうして、こんなに小鳥が騒ぎまわっているのだろう。ピイチクピイチク、何を騒いでいるのでしょう。」
「あの人」の思惑への気づき。小鳥の正体の気づき。

なにかしらを悟ってしまったために「あの人」を売る動機が無くなった。
 突然の態度変容。動機の急拵え。

6、3小鳥が良心だという論に対し
自分が「商人」で「銀三十」の為にイエスを売りに来たということを忘れていた。
神の国の近づきを悟ったユダはいままでの苦労が馬鹿に思えて自嘲する。
P162、ℓ1「私は嘘ばかり申し上げました」という嘘。
それならばP161以外の全ページが嘘ということになり、書く必要性がない。
「銀三十枚」欲しさにイエスを売ったとは考えられない。
真の理由はP160、ℓ3「火と水と。永遠に解け合う事の無い宿命」に絶望したからである。

6、4全体のまとめとして
 ユダという人物を固定観念から解放し、ゆさぶりをかけ再構築するテクストである。

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まとめtyaiました【太宰治「駈込み訴へ」への試論 テクスト論から もう一度解釈してみる レジュメ~1~】

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