偏屈文化人による本グランプリ 2012年第1位 原田マハ作『楽園のカンヴァス』 感想とレビュー

2012年始まってまだ5ヶ月ですけで構いません。今年読んだ本のなかで最もすばらしいと感じたのが原田マハさん作の『楽園のカンヴァス』です。
前回取り上げたルソーですが、私がルソーを知るようになったのはこの本に影響されたからです。この『楽園のカンヴァス』はルソーの最後の筆、『夢』をめぐる物語です。

夢の詳細はこちらのホームページから引用させてもらいます。
http://www.salvastyle.com/menu_impressionism/rousseau.html
■ 夢 (Le rêve) 1910年
204.5×298.5cm | 油彩・画布 | ニューヨーク近代美術館

素朴派を代表する画家アンリ・ルソー随一の代表作『夢』。本作は国外へ旅行したことがなかったルソーが、想像力と独特の観察眼によって制作した大作であり、1910年にアンデパンダン展(無審査出品制の美術展覧会)へ出品され、多くの批評家らから賞賛を受けた作品である。同展へ出品された際、イタリア出身の詩人ギヨーム・アポリネール(ポーランド人)による次の詩が添えられたことが知られている。「甘美な夢の中のヤドヴィガ、いとも安らかに眠りへと誘われ、蛇使いの吹く笛の音を聴き、その瞑想を深く胸に吸い込む。そして緑燃える木々の波の上では、月影がきらめき、野生の蛇たちは、曲の陽気な調べに耳傾ける」。ヤドヴィガとは画家が数年前に恋焦がれていたポーランド人女性の名前であり、画家自身の言葉によると「このソファーの上で眠る女は森の中に運ばれて、蛇使いの笛の音を聴く夢を見ているのだ。」とソファーに横たわるヤドヴィガについて解説している。本作に描かれる動植物は雑誌や書籍、動・植物園などに何度も足を運び、観察を重ねて描かれたものであるほか、本作ではルソー作品に通ずる緑色を多用した独特の静謐な世界観が画面全体を夢想的に支配しており、本作の不可思議で幻惑的な雰囲気は観る者を強く魅了する。なお本作は画商ヴォラールからニューヨークのジャニス画廊に入り、その後、大富豪ロックフェラー家が所有し、ネルソン・A・ロックフェラーによってMoMA(ニューヨーク近代美術館)へと寄贈された。
柔らかな光で闇夜を照らす月明かり。画家自身の言葉によると「このソファーの上で眠る女は森の中に運ばれて、蛇使いの笛の音を聴く夢を見ているのだ。」とソファーに横たわるヤドヴィガ(ヤドヴィガとは画家が数年前に恋焦がれていたポーランド人女性の名前)について解説している。
henri_rousseau27_convert_20120503000053.jpg


今から約100年前のルソー最後の作品をめぐる物語ですが、純文学とは言えないと思います。でもミステリーかといわれるとそうでもないような気がするのです。ジャンルわけは対して重要ではないのでどうでもよいことなのですが、何が重要かというとやはりそこに描かれる物語性だと思います。最近いくつか本を読みましたが、どれもこれもストーリーというものがちっとも面白くない。
それをこの作品は物語を書くということの真髄を教えてくれるように作られているのです。便宜上絵画をめぐるミステリーとしておきますが、とにかく面白いの一言に限ります。ルソーの絵が人々を魅了し、引き寄せはなさないように、そのルソーを題材にしたこの作品もまた人々の心をわしづかみにしてしまいます。あまりにも熱中しすぎて、本を開いたその日に読み終わってしまいました。こんなことは久しぶりです。
プロローグとエピローグは元日本人研究者、早川織絵による視点で描かれます。本編はニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンにより描かれます。実在する事柄や、史実に基づくよく取材された作品で、今になっても一体どこからが原田さんによる創作(嘘)なのかどこまでが史実なのかの判断を決めかねる状態です。
そのよく取材されていて計算された作品はとても美しい芸術といっともいいと思います。またその精密さだけに留まらず、作品のなかに時間軸を明確に作る。これが作品をとても深く、重厚なものとしています。読書好きにはたまらない、読書欲を見事に満たしてくれる感動の一冊です。
登場人物たちの20年の時間の推移と、100年前のルソーの物語、この二つが見事に織成しているのです。上手く言葉に出来ないのですが、作品の中に出てくる物語(ハリーポッターで言ったら3つの秘宝の物語、とある魔術の禁書目録で言ったらその原典)を描くことの重要性を感じます。物語のなかに物語をかく。これは実際難しいのです。例に挙げた二つの作品、ハリーポッターではその民話のような3つの秘宝の話が全て語られていました。だから納得できるのです。ただ禁書目録の場合原典の一部さえ文章になって出てきてはいません。作品のなかで重要になってくるその作品のバックグラウンドにある物語を書き込むということは本当に難しいことなのだとおもいます。それをかける作家が殆どいません。そんななか、原田さんは見事に作品のなかのルソーの物語を描ききったのです。
原田マハさんという方、実は私は今回初めて知ったのです。実際にキュレーター(施設の収集する資料に関する鑑定や研究を行い、学術的専門知識をもって業務の管理監督を行う専門職、管理職を指す)でもある彼女は、なんと今回登場するニューヨーク近代美術館に勤務していたことがあるのです。なるほどよく取材されているなと思いました。きっと原田さんはMOMAに勤めていることからルソーの絵をよく目にして作品の構想を何年も練っていたのではないでしょうか。
少し専門的なものであることは確かです。ですから大衆受けするかどうかは少し不安なところがあります。それだけ内容の濃く、すばらしい芸術作品であるから、普段から本を読まないような人にはかなり難しいのかも知れません。ですが、このよさをわかる人々、特に本を読む人間や、美術に関連のある人々には是非読んでもらいたいすばらしい作品です。

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